連帯しない共同保証人の分別の利益については、単純保証人の主張を要せず、そのことを知らずに単純保証人がその負うべき分割後の保証債務額(負担部分)を超えた弁済をしたときは、その超えた額について不当利得が成立するとした事例(判タ1516号125頁 令和4年5月19日札幌高裁判決)

1 分別の利益について、実体法上、単純保証人からの主張は必要ではなく、保証債務は当然に分割される。 2 訴訟手続上は、分別の利益はその利益を享受すべき単純保証人からの主張を要する(全額の保証債務履行請求に対する抗弁となる。)とするのが通説実務…

破産管財人が、別除権の目的である不動産の受戻しについて上記別除権を有する者との間で交渉し、又は、上記不動産につき権利の放棄をする前後に上記の者に対してその旨を通知するに際し、上記の者に対して破産者を債務者とする上記別除権に係る担保権の被担保債権についての債務の承認をしたときは、その承認は上記被担保債権の消滅時効を中断する効力を有する(判タ1511号119頁)

1 承認(民法147条3号)は、既に得ている権利を放棄するなどといった新たな処分行為をするものではないから、承認をするに相手方の権利についての処分権限を有することを要しない(民法156条)が、承認によって時効中断効という不利益が生ずる以上、同条の…

*複数の包括遺贈のうちの一つがその効力を生ぜず、または放棄によってその効力を失った場合における、その効力を有しない包括遺贈につき包括受遺者が受けるべきものであったものの帰趨(判タ1511号107頁)

1(判決要旨)複数の包括遺贈のうちの一つがその効力生ぜず、又は放棄によってその効力を失った場合、遺言者がその遺言に別段の意思を表示した時を除き、その効力を有しない包括遺贈につき包括受遺者が受けるべきであったものは、他の包括受遺者には帰属せ…

失火責任法の重過失(判タ№1509 19頁)

1 一般的な考慮要素 ➀点火行為前の確認や準備、場所の選定 燃焼器具の状態の確認や手入れの状況、周囲の可燃物の有無や可燃物との距離のほか、屋外の事案では気象条件等 ②点火行為 点火行為の方法自体の安全性や点火行為時の安全確認の有無等 ③点火行為後の…

被相続人の生前に払い戻された預貯金を対象とする訴訟についての一試論(判タ1500号39頁)

1 本訴訟類型は、審理が長期化しやすいという特徴がある。 ⑴ 訴訟を提起する相続人は、生前の被相続人との関係が疎遠であったり、相手方相続人との関係も被相続人の生前の身上監護や財産管理をめぐり、長期間良好とは言い難い関係にあったと思われる事案も…

担保不動産競売の債務者が免責許可の決定を受け、同競売の基礎となった担保権の被担保債権が上記決定の効力を受ける場合における、当該債務者の相続人の民事執行法188条において準用する同法68条にいう「債務者」該当性(最第一小決令和3年6月21日判タ1492号78頁)

1 担保不動産競売の債務者が免責許可の決定を受け、同競売の基礎となった担保権の被担保債権が上記決定の効力を受ける場合、当該債務者の相続人は、民事執行法188条において準用する同法68条にいう「債務者」に当たらない。 2 民事執行法68条、18…

民法上の配偶者が中小企業退職金共済法14条1項1号にいう配偶者に当たらない場合(最第一小判令和3年3月25日判タ1488号89頁)

1 民法上の配偶者は、その婚姻関係が実体を失って形骸化し、かつ、その状態が固定化して近い将来解消される見込みのない場合、すなわち、事実上の離婚状態にある場合には、中小企業退職金共済法14条1項1号にいう配偶者に当たらない。 2 Xは、Aとその民…

自筆遺言証書に真実遺言が成立した日と相違する日の日付が記載されているからといって同証書による遺言が無効となるものではないとされた事例(最第一小判令和3年1月18日判タ1486号11頁)

1 遺言者が、入院の日に自筆証書による遺言の全文、同日の日付及び氏名を自書し(4/13)、退院して9日後(全文等の自書日から27日後 5/10)に押印した等判示の事実関係の下においては、同自筆証書に真実遺言が成立した日と相違する日の日付が記載されて…

不動産競売手続において建物の区分所有等に関する法律66条で準用される同法7条1項の先取特権を有する債権者が配当要求をしたことにより配当要求債権について差押え(平成29年法律第44号による改正前の民法147条2号)に準ずるものとして消滅時効の中断の効力が生ずるための要件(最第二小判令和2年9月18日判タ1481号21頁)

1 不動産競売手続において建物の区分所有等に関する法律66条で準用される同法7条1項の先取特権を有する債権者が配当要求をしたことにより、上記配当要求における配当要求債権について、差押え(平成29年法律第44号による改正前の民法147条2号)…

請負人である破産者の支払の停止の前に締結された請負契約に基づく注文者の破産者に対する違約金債権の取得が、破産法72条2項2号にいう「前に生じた原因」の基づく場合に当たり、上記違約金債権を自働債権とする相殺が許されるとされた事例(最第三小判令和2年9月8日判タ1481号25頁)

1 請負人である破産者Aが、その支払の停止の前に、注文者Yとの間で複数の請負契約を締結していた場合において、上記の各請負契約に、Aの責めに帰すべき事由により工期内に工事が完成しないときはYが当該請負契約を解除することができるとの約定及び同約定に…

被用者が使用者の事業の執行について第三者に加えた損害を賠償した場合における被用者の使用者に対する求償の可否(最第二小判令和2年2月28日判タ1476号60頁)

1 被用者が使用者の事業の執行について第三者に損害を加え、その損害を賠償した場合には、被用者は、使用者の事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防又は損失の分散についての使用者の配慮…

遺産分割協議後に発見された遺産の分割において、先行した遺産分割を考慮するか(消極)(大阪高決令和元年7月17日判タ1475号79頁)

1 平成11年に被相続人Cが死亡し、相続が開始した。相続人は、妻である亡D、子である抗告人A及び相手方Bの3人であった。 平成13年に亡Dも死亡し、平成14年に亡Dの相続人であるAとBとの間で、遺産分割協議が成立した。ところが、平成16年頃にC名義…

不動産を親族に遺贈する旨の自筆証書遺言作成後に、当該不動産売却のため、不動産業者との間で専任媒介契約を締結し更新したことが、民法1023条2項「抵触」に当たらないとして、遺言の撤回があったとみなすことができないとされた事例(東京地判平成30年12月10日判タ1474号243頁)

1 亡父が、自筆証書遺言作成後、同遺産を構成する各不動産を売却するため、不動産業者との間で専任媒介契約を繰り返し締結し、同各不動産を売却する意思を示す等しており、民法1023条2項により上記遺言は撤回されているから、原告は相続により同各不動産を…

民法916条にいう「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」の意義(最二小判令和元年8月9日判タ1474号5頁)

1 民法916条にいう「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、相続の承認または放棄をしないで死亡した者の相続人が、当該死亡した者からの相続により、当該死亡した者が承認又は放棄をしなかった相続における相続人としての…

破産法162条1項柱書の「既存の債務についてされた担保の供与」の該当性につき、対抗要件具備の経緯が問題とされた事例(判タ1471号130頁 和歌山地方裁判所民事部 平成28年(ワ)第584号)

1 本件融資から本件各担保契約についての対抗要件の具備までに時間を要した(本件融資6/30 担保契約7/17 対抗要件具備7/28又は8/13)ことを理由に、本件各担保契約が「既存の債務についてされた担保の供与」該当するかが争われた 2 ⑴ 破産法162条1項柱書は…

被用者が使用者又は第三者に損害を与えた場合における使用者と被用者の間の賠償・求償関係(判タ1468号5頁)

第1 使用者による請求について 1 訴訟物 2 賠償・求償の制限1(特約によらない制限) (4)裁判例の傾向の分析 ア 制限の範囲各論以外の点 イ 制限の範囲各論について (ア)交通事故類型について (イ)図利加害類型について 報償責任や危険責任の観点…

リフォーム工事が建築関係法令に違反した場合の契約関係の整理(判タ1467号18頁)

1 本報告では、注文者が建築関係法令違反のリフォーム工事(特に断らない限り、設計施工一体型を念頭にする。)を問題とするときの典型的な主張及びその問題点を整理して審理の見通しを立てられるようにすることを目的とする。 2 報告者が所属する大阪地裁…

死後認知(民法910条)

1 相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において他の共同相続人がすでに当該遺産の分割をしていたときの民法910条に基づき支払われるべき価額の算定の基礎となる遺産の価額(判タ1465号49頁 最判R1.8.27) 2 判決…

金属スクラップ等の継続的な売買契約において目的物の所有権が売買代金の完済まで売り主に留保される旨が定められた場合に、買主が保管する金属スクラップ等を含む在庫製品等につき集合動産譲渡担保権の設定を受けた者が、売買代金が完済されていない金属スクラップ等につき売主に上記譲渡担保権を主張することができないとされた事例(最判平成30年12月7日第二小法廷判決民集72巻6号1044頁)

1 ➀目的物の所有権は代金完済まで売主に留保され、代金完済の時点で買主に目的物の所有権が移転するという構成(「留保構成」) ②売買契約によって売主から買主に留保所有権は移転され、買主から売主に留保所有権が設定されるという構成(「移転・設定構成…

区分所有建物の管理組合は、区分所有建物の共用部分について、民法717条の占有者に当たらない(東京高判平成29年3月15日・判タ1453号115頁 原審:前橋地裁高崎支部平成28年1月19日)

1 区分所有建物の共有部分については、管理組合は民法717条の占有者には当たらず、区分所有者の全員が民法717条の占有者には当たる、とするのが立法担当者による解説であり、本判決も同じ考え方によったものと思われる。 2 本判決は、「敷地及び共用部分等…

建築訴訟の審理モデル~追加変更工事編~(判タ1453号5頁)

1 審理モデル(追加変更工事編、瑕疵編、出来高編)は、今後3回に渡って本誌に掲載される予定である。 2 追加工事の要件事実 ①当該工事が追加変更工事であること(追加性) ②施工合意 ③確定代金額の合意 ③´a有償合意(有償性) b相当代金額(相当性) ④⑤完…

抵当権の被担保債権が免責許可の決定の効力を受ける場合における当該抵当権自体の消滅時効(判タ1450号40頁)

1 破産法253条1項本文に規定する免責の法的性質については、自然債務説が通説であり、判例も自然債務説を前提としていると解されている。 破産手続によらないで行使することができる別除権(破産法2条9項、65条1項)が免責の効力を受けないことは、当然のこ…

使用貸借の終了(使用収益をする之に足りる期間の経過)(民597?但書)(判タ1499号64頁)

1 昭和45年最判及び平成11年最判の摘示した考慮要素についての考察 ア「経過した年月」 裁判例においては、土地の使用貸借においては20年から30年の経過により、建物の使用貸借においては10年を超える期間の経過により貸主の明渡請求を認めている例が多くな…

民法597条に基づく使用貸借契約の終了〜親族間の不動産の使用貸借契約を念頭に〜(判タ1499号49頁)

1 別紙最高裁の判決一覧 A 597条1項により解決を図ることができる類型 B 597条2項により解決を図ることができる類型 C 597条3項により解決を図ることができる類型 2 (B類型)明確な使用目的の定めがなく、個別的具体的な使用目的も認定できない場合に…

滞納処分による差押え後に設定された賃借権により競売開始前から使用又は収益する者の民法395条1項1号該当性(最三小決平成30年4月17日判タ1449号91頁)

1 抵当権者に対抗することができない賃借権が設定された建物が担保不動産競売により売却された場合において、その競売手続の開始前から当該賃借権により建物の使用又は収益をする者は、当該賃借権が滞納処分による差押えがされた後に設定されたときであって…

ノンコミットメントルール(判タ1447号5頁)

1(1)ノンコミットメントルールとは、a弁護士が、争点整理において、後日撤回する可能性を留保した暫定的発言をすることを認めること、b裁判所は、暫定的発言を主張として扱わないこと、c相手方代理人は、暫定的発言を次回の準備書面で引用したり、そ…

民訴法17条に基づく移送−要件・考慮要素の検討を中心に−(判タ1446号5頁)

1 民訴法17条の類推適用による自庁処理 民訴法は、特定の地方裁判所又は簡易裁判所を専属的管轄裁判所とする旨の管轄の合意に反し、法定の管轄裁判所に当たる他の地方裁判所又は簡易裁判所に訴えが提起された場面において、当該裁判所が管轄違いを理由とす…

認知症対応型共同生活介護サービスを提供するグル―プホームの2階の居室の窓から認知症高齢者である入居者が自ら転落して受傷した事故について、当該施設は通常有すべき安全性を欠いており、設置又は保存の瑕疵があったとして、工作物責任を肯定した事例(東京地判平成29年2月15日判タ№1445号219頁)

1 本件は、Yが認知症対応型共同生活介護サービスを提供するグループホーム(本件施設)の2階の居室(本件居室)の窓(本件窓)から地上に転落して受傷したA(当時93歳)及びその長女であるXが、本件施設には居室の窓からの転落を防止するための措置が講…

破産債権者が破産手続開始後に物上保証人から債権の一部の弁済を受けた場合における、破産手続開始時の債権の額を基礎として計算された配当額のうち実体法上の残債権額を超過する部分の配当方法(最三小決平成29年9月12日判タ1442号52頁)

1 破産債権者が破産手続開始後に物上保証人から債権の一部の弁済を受けた場合において、破産手続開始の時における債権の額として確定した物を基礎として計算された配当額が実体法上の残債権額を超過するときは、その超過する部分は当該債権について配当すべ…

相続開始後の遺産預貯金の払戻に関する3つの問題の考察(判タ�・1441 17頁)

3つの問題 (1)払い戻された預貯金債権の価値代替物(代償財産)の遺産性 (2)相続開始後に遺産である預貯金が払い戻された場合の具体的相続分の計算方法 (3)相続開始後に遺産である預貯金を払い戻した相続人に対して、他の相続人が損害賠償請求又は…