破産手続開始前に成立した第三者のためにする生命保険契約に基づき破産者である死亡保険金受取人が有する死亡保険金請求権と破産財団への帰属(判例タイムズ No.1426 p32)

1.判決要旨
破産手続開始前に成立した第三者のためにする生命保険契約に基づき破産者である死亡保険金受取人が有する死亡保険金請求権は、破産法34条2項にいう「破産者が破産手続開始前に生じた原因に基づいて行うことがある将来の請求権」に該当するものとして、上記死亡保険金受取人の破産財団に属する。
2.事実関係の概要
(1)夫婦であるY1及びAは、平成24年3月、東京地裁に破産手続開始の申し立てをし、同裁判所は、同月、両名についてそれぞれ破産手続開始の決定をして、X1・X2(実際には1人の弁護士)をY1、Aそれぞれの破産管財人に選任した。
(2)Y1及びAの長男であるBは、平成24年4月に死亡した。(Bが締結していた)本件生命共済契約の定めによれば、死亡共済金の受取人はY1及びAとなり、(同じくBが締結していた)本件生命保険契約では、死亡保険金の受取人はY1に指定されていた。
(3)Y1は、平成24年5月上旬、上記死亡共済金及び上記死亡保険金の各請求手続をして、同月下旬に2400万円を受け取り、このうち1000万円(以下「本件金員」という。)を費消し、同年9月、残金1400万円をX1の預り金口座に振り込み送金した。なお、本件金員の内800万円は、同年6月からY1の代理人となった弁護士であるY2の助言に基づいて費消されたものである。
(4)本件本訴は、Y1において本件金員を法律上の原因なくして利得するものであり、また、Y2にはY1が本件金員を費消したことにつき弁護士としての注意義務違反があると主張して、Y1に対しては不当利得返還請求権に基づき、Y2に対しては不法行為による損害賠償請求権に基づき、金銭の支払いを求めるものである。(本件反訴は、Y1がX1に対し、X1が法律上の原因なく1400万円を利得しているとして、不当利得返還請求に基づき支払を求めるものである。)
3.原審
 (本件保険金等請求権は、法34条2項「将来の請求権」に該当するものとして)本件各破産財団に属することになるから、Y1が本件金員を費消したことは、Y1において本件金員を法律上の原因無くして利得するものであり、また、Y1が本件金員のうち800万円を費消してしまったことについて、Y2に弁護士としての注意義務違反が認められるとして、X1・X2の本訴請求のうちY1に対する請求を一部認容し、Y1の反訴請求を棄却すべきものとした。
4 通説・執行実務と反対説(保険事故発生説)
(1)通説・執行実務:保険契約成立時に保険金支払事由の発生を停止条件とする抽象的保険金請求権が発生し、法34条2項の「将来の請求権」に該当する(破産財団に属する)。
(2)反対説(保険事故発生説):そもそも抽象的保険金請求権の発生を認めないか、又はそのような請求権の発生自体は認めても、法34条2項にいう「将来の請求権」には該当しないとして、保険事故の発生により具体化した保険金請求権は、その保険事故が破産手続開始の決定前に発生していない限り、破産者たる保険金受取人の自由財産(新得財産)になる。