1 社会の倫理、道徳に反する醜悪な行為に該当する不法行為の被害者が
当該醜悪な行為に係る給付を受けて利益を得た場合に、被害者からの
損害賠償請求において同利益を損益相殺等の対象として被害者の損害額
から控除することの可否
2 いわゆるヤミ金融業者が元利金等の名目で違法に金員を取得する手段
として著しく高利の貸付けの形をとって借主に金員を交付し、借主が
貸付金に相当する利益を得た場合に、借主からの不法行為に基づく損害
賠償請求において同利益を損益相殺等の対象として借主の損害額から
控除することは、民法708条の趣旨に反するものとして許されないとされ
た事例 −最高裁平20.6.10第三小法廷判決(判タ1273-130)−
1.社会の倫理、道徳に反する醜悪な行為に該当する不法行為の被害者が
これによって損害を被るとともに、当該醜悪な行為に係る給付を受けて
利益を得た場合には、同利益については、加害者からの不当利得返還請求
が許されないだけでなく、被害者からの不法行為に基づく損害賠償請求に
おいて損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として被害者の損害額から
控除することも、民法708条の趣旨に反するものとして許されない(判旨)
2.解説
① 民法708条の不法原因給付の規定によれば、ヤミ金融店舗から原告らに
対する不当利得返還請求が認容されることもなく、原告らは貸付金相当
額の返還債務を免れて利益が生じることになるが、不当利得返還請求権
と不法行為に基づく損害賠償請求とは訴訟物が異なるので後者において
損益相殺を主張するのは何ら問題ないとは直ちに言い切れないと
思われる。
② 不法原因給付の制度は。このような権利主張が多くの場合不当利得返還
請求という形式でされることを考慮し、民法708条として不当利得の章に
収められているが、本来、その趣旨とするところは、単に不当利得制度
を制限する理論たるにとどまらず、上記の私法の根本原因あるいは高次
の理念を実現することにあると考えられる。