1 今回の3件の最高裁判決がなされた事案は、いずれも、リボルビング式の基本
契約に基づく取引で、提訴の10年以上前から、過払金が発生しており、以降も、
貸付けと返済が繰り返されたにもかかわらず、提訴前の10年間、一度も、貸付
残高がプラスになることがなかったという事例。
2 今回の3件の最高裁判決は、いずれも、このような過払金の存在する事案に
ついて、返還請求権の時効の起算点は、取引の終了時であると判示したもの。
3 解する根拠を、過払金が発生した場合にはこれをその後に発生する新たな
借入金債務に充当する旨の合意(以下、「過払金充当合意」という)が存する
場合、取引の継続中は、それが権利行使の法律上の障害になることに求めて
いる。
4 1月22日判決の担当調査官は、同判決の射程範囲について「本判決の説示
内容からすれば、基本契約に基づく取引が複数存在する場合であって、第1
取引により発生した過払金が第2取引に充当されない場合は、時効期間は
取引毎に別途進行するということになろう」としている。
5 他方、基本契約に基づく、継続的に貸付けと返済を繰り返す消費貸借で
あっても、その中に過払金充当合意が含まれない場合は、原則どおり、過払
金発生時から時効の進行が始まることになると思われる。
6 基本契約は締結されるものの、それは一定の信用供与枠と与信条件を包括
的に定めるのみで、基本契約に基づく各貸付は独立しており、債務の弁済は
各貸付ごとに個別的な対応関係をもって行われることが予定されている場合、
ロプロ型の基本契約に基づく取引について、過払金充当合意が否定される
のであれば、各過払金の発生時から返還請求権の時効が進行を始めるのが
原則ということになろう。
7 仮に、過払金充当合意は否定されるが、それ以外の原因で充当が肯定
される場合、過払金返還請求権の時効の起算点はいつになるかが問題と
なる。
8 問題となるのは、「取引の終了」を、基本契約の終了と解するのか(以下
「基本契約終了時説」という)、約定利率での計算による債務の完済と解す
るのか(以下「完済時説」という)で、どちらの解釈を採用するかによる。
借主が、約定利率での計算による完済をしたが、基本契約を解約せず、
その後、その基本契約に基づく新たな借入れを行わないまま10年が経過した
という場合である。
9 平成21年7月17日、継続的な金銭消費貸借取引の終了時が時効の起算点で
ある場合であっても、「貸主が悪意の受益者である場合における民法704条
所定の利息は、過払金発生時から発生する」と判示した。