担保不動産収益執行における担保不動産の収益に係る給付を求める権利

(判タ1308-120 H21.7.3最判

1 管理人が取得するのは、賃料債権等の担保不動産の収益に係る給付を
 求める権利(以下「賃料債権等」という。)自体ではなく、その権利を
 行使する権限にとどまり、賃料債権等は、担保不動産収益執行の開始
 決定が効力を生じた後も、所有者に帰属しているものと解するのが相当
 であり、このことは、担保不動産収益執行の開始決定が効力を生じた
 後に弁済期の到来する賃料債権等についても変るところはない。


2 そうすると、担保不動産収益執行の開始決定の効力が生じた後も、
 担保不動産の所有者は賃料債権等を受働債権とする相殺の意思表示を
 受領する資格を失うものではないというべきであるから、本件建物の共
 有持分権者であり賃貸人は、本件開始決定の効力が生じた後も、本件
 賃料債権の債権者として本件相殺の意思表示を受領する資格を有してい
 たというべきである。


3 抵当権設定登記の前に取得した賃貸人に対する債権を自働債権とし、
 被担保債権について不履行があったときは抵当権の効力は担保不動産の
 収益に及ぶが、そのことは抵当権設定登記によって公示されていると
 解される。賃借人が抵当権設定登記の前に取得した賃貸人に対する債権
 については、賃料債権と相殺することに対する賃借人の期待が抵当権の
 効力に優先して保護されるべきである。


4 担保不動産の賃借人は、抵当権に基づく担保不動産収益執行の開始
 決定の効力が生じた後においても、抵当権設定登記の前に取得した賃貸
 人に対する債権を自働債権とし、賃料債権を受働債権とする相殺をもって
 管理人に対抗することができるというべきである。


5 抵当権設定登記の後に賃貸人に対して取得した債権を自働債権とし、
 賃料債権を受働債権とする相殺をもって抵当権者に対抗することができ
 ないと判示するのは、物上代位により抵当権の効力が賃料債権に及ぶこと
 は抵当権設定登記により公示されているとの考えに基づく。

 (参考:H13.3.13 判タ1058-89)