盗難金と保険金請求 (判タ1360-197)

1.自動車の盗難を保険事故とする保険金請求において、盗難の外形的事実である「被保険者以外の第三者が被保険者の占有に係る被保険自動車をその所在場所から持ち去ったこと」につき高度な蓋然性があると認められる程度まで立証できたとはいえないとして、保険金請求が棄却された事例(判タ1360-197)


2.被保険自動車の盗難という保険事故が保険契約者又は被保険者の意思に基づいて発生したことは、保険者が免責事由として主張、立証すべき事項であるから、盗難という保険事故が発生したとして車両保険金の支払を請求する者は、被保険自動車の持ち去りが被保険者の意思に基づかないものであることを主張、立証すべき責任を負うものではない。


3.しかし、上記主張立証責任の分配によっても、保険金請求者は、「被保険者以外の第三者が被保険者の占有に係る被保険自動車をその所在場所から持ち去ったこと」という盗難の外形的事実を主張、立証する責任を免れない。


4.盗難の外形的事実は、「被保険者の占有に係る被保険自動車が保険金請求者の主張する所在場所に置かれていたこと」及び「被保険者以外の者がその場所から被保険自動車を持ち去ったこと」という事実から構成され、その立証の程度には、単に「外形的・客観的に見て第三者による持ち去りとみて矛盾のない状況」を立証するだけでは、盗難の外形的事実を高度の蓋然性があると認められる程度まで立証したことにならない。


5.本件では、本件車両の盗難という保険事故の外形的事実を高度な蓋然性があると認められる程度まで立証したものと評価することはできない。


6.盗難などを保険事故として保険金請求がされたケースについて、保険金請求者は、事故の偶然性の主張立証責任を負わない(最平19.4.17、判タ1242号104項)が、盗難の場合には、「被保険者以外の第三者が被保険者の占有に係る被保険自動車をその所在場所から持ち去ったこと」という外形的事実は主張立証しなければならず、それは、「被保険者の占有に係る被保険自動車が保険金請求者の主張する所在場所に置かれていたこと」及び「被保険者以外の者がその場所から被保険自動車を持ち去ったこと」という事実から構成されるものとされている(最平19.4.23判タ1242号100項)


7.保険請求におけるいわゆるモラル・リスクケースに対しては、(1)保険事故の外形的事実を認定しない方法(2)故意による事故招致を認める方法があるが、本判決は、前者をとったものである。