原告の被告に対する不貞慰謝料請求権が破産法253条1項2号所定の非免責債権に該当しないとされた事例(東京地裁H28.3.11判タ1429号234頁)

1 被告は、破産手続開始(免責許可)申立において、原告から不法行為(原告の夫との不貞関係)による損害賠償請求権を破産債権として挙げており、破産手続開始決定及び免責許可決定を受けた。原告は、同損害賠償請求権は、破産法253条1項2項の非免責債権に該当すると主張した。
2 被告は、不貞関係があったことについてはこれを争わず、破産法253条1項2号は、「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」は非免責債権である旨規定し、ここでいう「悪意」とは、故意を超えた積極的な害意をいうものと解されるとして、積極的な害意の存在を争った。
3 「悪意」の意味については、旧法当時、故意を超えた積極的な害意をいうと解する通説と、故意に匹敵するような過失による損害賠償請求権が免責されるのは被害者救済の観点からして相当でないとして通常の「故意」と同じ意味に解すべきであるとする有力説があった。ところが現行法は、非免責債権として新たに3号(破産者が故意または重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権)が設けられたことから、上記有力説を説く論者においても現行法の「悪意」については通説に与するものが現れてきている。
4 本判決は、現行破産法253条1項2号所定の「悪意」の意味につき、故意を超えた積極的な害意をいうと解する見解を採用した上で、本件の具体的事実関係の下では、被告には原告に対する積極的な害意があったということはできないとしている。