連帯しない共同保証人の分別の利益については、単純保証人の主張を要せず、そのことを知らずに単純保証人がその負うべき分割後の保証債務額(負担部分)を超えた弁済をしたときは、その超えた額について不当利得が成立するとした事例(判タ1516号125頁 令和4年5月19日札幌高裁判決)

1 分別の利益について、実体法上、単純保証人からの主張は必要ではなく、保証債務は当然に分割される。

2 訴訟手続上は、分別の利益はその利益を享受すべき単純保証人からの主張を要する(全額の保証債務履行請求に対する抗弁となる。)とするのが通説実務である。

3 本判決は、単純保証人が、分別の利益を知りながらあえて自己の負担部分を超えて弁済した場合には主債務者に対する求償権が発生し、そうではなく、分別の利益を知らずに自己の負担部分を超えて弁済した場合には弁済受領者に対する不当利得返還請求権が発生するという理解に立つ。

4 また、利得者の悪意者性について、本判決は、貸金に係る過払金返還訴訟における一連の最高裁判例を踏まえたと思われる(法律上の誤解をしたことについてやむを得ないといえる特段の事情の有無を判断要素とする。)。

5 本判決は、不法行為について、その当時の状況に照らして社会通念上著しく相当性を欠くとはいえないとして、その成立を否定したが、これは過払状態に陥った後に貸金業者が約定の弁済を請求したことの不法行為性について判示した最二小判平29.9.4判タ1308号111頁を踏まえたものと思われる。

破産管財人が、別除権の目的である不動産の受戻しについて上記別除権を有する者との間で交渉し、又は、上記不動産につき権利の放棄をする前後に上記の者に対してその旨を通知するに際し、上記の者に対して破産者を債務者とする上記別除権に係る担保権の被担保債権についての債務の承認をしたときは、その承認は上記被担保債権の消滅時効を中断する効力を有する(判タ1511号119頁)

1 承認(民法147条3号)は、既に得ている権利を放棄するなどといった新たな処分行為をするものではないから、承認をするに相手方の権利についての処分権限を有することを要しない(民法156条)が、承認によって時効中断効という不利益が生ずる以上、同条の反対解釈により、管理権限を有することを要すると解されている。

2 破産管財人の職務は破産財団に関する処理をすることにあり、破産管財人の破産財団に属する財産に対する管理処分権限もその限度で付与されるべきものであるから、破産管財人がした行為が債務の承認として時効中断効を生ずるためには、当該行為が破産管財人の職務の遂行の範囲に属するものである必要があろう。

*複数の包括遺贈のうちの一つがその効力を生ぜず、または放棄によってその効力を失った場合における、その効力を有しない包括遺贈につき包括受遺者が受けるべきものであったものの帰趨(判タ1511号107頁)

1(判決要旨)複数の包括遺贈のうちの一つがその効力生ぜず、又は放棄によってその効力を失った場合、遺言者がその遺言に別段の意思を表示した時を除き、その効力を有しない包括遺贈につき包括受遺者が受けるべきであったものは、他の包括受遺者には帰属せず、相続人に帰属する。

2 本件遺言のうち、Eへの包括遺贈は、Eの放棄によりその効力を失った。

   民法995条本文は、遺贈がその効力を生じないとき、又は放棄によってその効力を失ったときは、受遺者が受けるべきであったもの(以下「失効受遺分」という。)は相続人に帰属する旨を定めているところ、包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有するとされる(民法990条)ことから、学説上、民法995条の「相続人」に包括受遺者が含まれるか否かに争いがある。

    従来の通説は、失効受遺分は(相続人に加えて)他の包括受遺者にも帰属すると解していたが、現在では、同乗の「相続人」に包括受遺者は含まれず、失効受遺分は専ら相続人に帰属すると解するのが多数説である。

   なお、失効受遺分が各相続人にいかなる割合で帰属するか(法定相続分の割合か、指定相続分の割合か、それ以外か)という点は残された問題である。

失火責任法の重過失(判タ№1509 19頁)

1 一般的な考慮要素

➀点火行為前の確認や準備、場所の選定

 燃焼器具の状態の確認や手入れの状況、周囲の可燃物の有無や可燃物との距離のほか、屋外の事案では気象条件等

②点火行為

 点火行為の方法自体の安全性や点火行為時の安全確認の有無等

③点火行為後の監視

 点火行為後の監視の方法や状況等

④消火活動等の各段階

 消火活動自体の内容及び程度や、消火活動を終了する際の周囲の状況等の確認等

⑤火災発生の機序

 過去の同様の使用方法による火災又はその危険性の発生の有無や、それを被告が認識し又は認識し得たかどうか等

2 出火原因別の考慮要素

3 業務性の有無が重過失の有無の判断に与える影響

4 火災発生時の科学的知見や社会的諸事情が重過失の有無の判断に与える影響

 

被相続人の生前に払い戻された預貯金を対象とする訴訟についての一試論(判タ1500号39頁)

1 本訴訟類型は、審理が長期化しやすいという特徴がある。

⑴ 訴訟を提起する相続人は、生前の被相続人との関係が疎遠であったり、相手方相続人との関係も被相続人の生前の身上監護や財産管理をめぐり、長期間良好とは言い難い関係にあったと思われる事案も多い。

 主張書面の過激な表現や証拠の提出の要否を巡る応酬が行われる。

⑵ 本訴訟類型においては、限られた客観証拠と供述証拠から非定型的な被相続人の財産管理の状況を推認することを強いられることになる。

⑶ 本訴訟類型における訴訟物は、不法行為による損害賠償請求権や不当利得返還請求権とされていることが多いが、これらの訴訟物の要件事実は定型ではなく、その主張立証責任の所在も含めて、裁判所及び当事者双方の共通認識を得ることが難しい場面がある。

2⑴文献は、「被相続人の生前に引き出された預貯金等をめぐる訴訟について」(判田1414号74頁以下)、「争点整理の手法と実践」(213頁以下)。

⑵ 本訴訟類型で問題となる預貯金の管理の委託に係る意思能力の有無と遺言能力の有無は類似した判断になるのではないかと思われることから、遺言能力に関する論考である土井文美「遺言能力」(判タ1423号15頁)も参考になる。

3 当初委託型関与であったが、その後被相続人が意思能力を喪失したとしても、相手方相続人に対する委託自体が終了するわけではなく、従前の委託の趣旨のとおりの委託事務の処理が継続してなされている場合には、特段の事情のない限り、委託の趣旨に反するということにはならない、と考えられる。

4 葬儀を実施したものが負担した葬儀費用は、被相続人との生前の委任に基づく事務処理費用償還請求等又は事務管理に基づく有益費用償還請求等として相続人に対して請求すべきものとする見解(潮見佳男155頁)に賛同したい。

担保不動産競売の債務者が免責許可の決定を受け、同競売の基礎となった担保権の被担保債権が上記決定の効力を受ける場合における、当該債務者の相続人の民事執行法188条において準用する同法68条にいう「債務者」該当性(最第一小決令和3年6月21日判タ1492号78頁)

1 担保不動産競売の債務者が免責許可の決定を受け、同競売の基礎となった担保権の被担保債権が上記決定の効力を受ける場合、当該債務者の相続人は、民事執行法188条において準用する同法68条にいう「債務者」に当たらない。

2 民事執行法68条、188条の立法趣旨につき、旧法下の通説では、➀債務者に差押不動産を買い受けるだけの資力があるのであれば、まず差押債権者に弁済すべきであること、②債務者が差押え不動産を買い受けたとしても、請求債権の全部を弁済できない程度の競落代金の場合には、債権者は同一債務名義をもって更に同一不動産に対して差押え、強制執行をすることができるため、無益なことを繰り返す結果になり、これを許す場合には競売手続が複雑化すること、③事故の債務すら弁済できない債務者の買受申出を許すと、代金不納付が見込まれ、競売手続の進行を阻害するおそれが他の場合より高いこと、を理由に、強制競売において債務者の買い受け資格を否定していた。

3 相続人については、➀目的不動産の買受けよりも被担保債権の弁済を優先すべきであるとはいえないし、②買受けを認めたとしても同一の債権の債権者の申立てにより更に強制競売が行われることもない。また、③その相続人については、前2③のおそれが類型的に高いとはいえない。

3 免責の法的性質につき、本決定は、従前の判例最判平成11年11月9日判タ1017号108頁等)と同じく、通説とされる自然債務説を前提としている。

 

民法上の配偶者が中小企業退職金共済法14条1項1号にいう配偶者に当たらない場合(最第一小判令和3年3月25日判タ1488号89頁)

1 民法上の配偶者は、その婚姻関係が実体を失って形骸化し、かつ、その状態が固定化して近い将来解消される見込みのない場合、すなわち、事実上の離婚状態にある場合には、中小企業退職金共済法14条1項1号にいう配偶者に当たらない。

 

2 Xは、Aとその民法上の配偶者であるCとが事実上の離婚状態にあったため、Cは本件退職金等の支給を受けるべき配偶者に該当せず、Xが次順位の受給権者として受給権を有すると主張した。

 

3 社会保障給付に関する法令における遺族給付の受給権者となる「配偶者」については、最一小判昭58.4.14民集37巻3号270頁、判タ534号108頁(以下「昭和58年4月判例」という。)以後、民法上の配偶者であっても、その婚姻関係が事実上の離婚状態にある場合には、上記受給権者となる配偶者に当たらないとの見解を基にした裁判例が積み重ねられてきた。

 

4 国家公務員の死亡による退職手当等についても、その受給権者の範囲及び順位の定めが、職員の収入に依拠していた遺族の生活保護を目的とするものであること等からすれば、その受給権者となる配偶者の意義についても、社会保障給付に関する法令における配偶者と同様の解すべきものといえよう。

 

5 中小企業退職金共済法同条の遺族の範囲と順位は、給付の性格の最も似通っている国家公務員の退職手当に関する定めにならったものとされている。

 

6 本件退職金等は、いずれも、遺族に対する社会保障給付等と同様に、遺族の生活保障を主な目的として、その受給権者が定められているものと解される。そうすると、本件退職金等は、民事上の契約関係等に基礎を置くものではあるものの、その受給権者となる法及び各規約における配偶者の意義については、社会保障給付に関する法令等における配偶者と同様に解するのが相当である。