民法上の配偶者が中小企業退職金共済法14条1項1号にいう配偶者に当たらない場合(最第一小判令和3年3月25日判タ1488号89頁)

1 民法上の配偶者は、その婚姻関係が実体を失って形骸化し、かつ、その状態が固定化して近い将来解消される見込みのない場合、すなわち、事実上の離婚状態にある場合には、中小企業退職金共済法14条1項1号にいう配偶者に当たらない。

 

2 Xは、Aとその民法上の配偶者であるCとが事実上の離婚状態にあったため、Cは本件退職金等の支給を受けるべき配偶者に該当せず、Xが次順位の受給権者として受給権を有すると主張した。

 

3 社会保障給付に関する法令における遺族給付の受給権者となる「配偶者」については、最一小判昭58.4.14民集37巻3号270頁、判タ534号108頁(以下「昭和58年4月判例」という。)以後、民法上の配偶者であっても、その婚姻関係が事実上の離婚状態にある場合には、上記受給権者となる配偶者に当たらないとの見解を基にした裁判例が積み重ねられてきた。

 

4 国家公務員の死亡による退職手当等についても、その受給権者の範囲及び順位の定めが、職員の収入に依拠していた遺族の生活保護を目的とするものであること等からすれば、その受給権者となる配偶者の意義についても、社会保障給付に関する法令における配偶者と同様の解すべきものといえよう。

 

5 中小企業退職金共済法同条の遺族の範囲と順位は、給付の性格の最も似通っている国家公務員の退職手当に関する定めにならったものとされている。

 

6 本件退職金等は、いずれも、遺族に対する社会保障給付等と同様に、遺族の生活保障を主な目的として、その受給権者が定められているものと解される。そうすると、本件退職金等は、民事上の契約関係等に基礎を置くものではあるものの、その受給権者となる法及び各規約における配偶者の意義については、社会保障給付に関する法令等における配偶者と同様に解するのが相当である。