民法642条と破産法53条の関係(判タ1394-366)(東京地裁24.3.1)

1 本件は、請負契約における注文者の破産において、請負人が、瑕疵担保義務
もしくはその前提となる検査受検義務等が未履行であるとして、請負代金請求
権が財団債権になる(破53Ⅰ、148Ⅰ⑦)と主張した事例。

2 民法642条の趣旨は、請負人は仕事が完成して初めて報酬を請求することが
できるため(民法633条参照)、注文者の破産手続きが開始した場合にも依然
として仕事を完成しなければ報酬を請求できないとすると請負人に酷であるか
ら、請負人に解除権を認めるなどして保護することにあり、請負契約の注文者
が破産手続き決定を受けた時に請負人の仕事が完成していた場合には、民法
642条の適用はない。

3 民法642条は双方未履行双務契約に関する破産法53条の特則であるが、民法
642条が適用されない場合には、原則に戻り破産法53条の適用を検討すべきで
ある。

4 本件点検に瑕疵がない場合には、業務委託料支払請求権は破産債権となるが
(破産法2条5項)、本件点検調書にわずかな瑕疵があった場合には破産法53条に
より業務委託料支払請求権を財団債権として行使できるなどとすると、原告は
瑕疵のない点検調書を作成していた場合よりも厚遇されるという不合理な結果
となる。

5 原告の主位的請求のうち業務委託料の支払を求める部分は、破産手続きによ
 らなければ行使できない破産債権の支払を求めるものである(破産法100条1項)
 として訴えを却下した。