賃借人への目的物への譲渡と賃料差押(判タ1384‐122)(最判H24.9.4)

1 本件は、賃料債権の差押え後に、差押債務者(賃貸人)が賃貸目的物を第三債務者(賃借人)に譲渡したため、譲渡後も賃料債権が発生し、取立が可能かが問題となった事案。

2 原審は、賃料債権は第三者の権利の目的となっているから、民法520条ただし書によ  り賃料債権が混同によって消滅することはない、と判断した。

3 継続的給付である賃料債権の差押えの効力は、差押債権者の債権及び執行費用の額を限度として、既に発生している債権のほか、債務者が差押え後に受ける賃料にも及ぶ(民事執行法151条)。

4 債権に対する差押えを受けた債務者が、当該債権の発生原因となる基本的法律関係を変更、消滅させることができるかについては、継続的給付に係る債権に対する差押えを受けた債務者であっても、制限されないとすることで、学説上、ほぼ異論がない。

5 判例も、給料債権に対して差押命令を受けた従業員が勤務先を退職した後にその勤務先に再雇用されたが、再雇用されるまでに6カ月余を経過している等の事情がある場合は、再雇用後の給料債権に対して、上記差押命令の効力が及ぶとすることはできないとする(最二小判S55.1.18判タ409‐77)。

6 以上の学説・判例に照らすと、賃料債権の差押後、賃借人が目的物を譲渡して、賃料債権の発生原因となる基本的賃貸借契約が終了することで、賃料債権の混同による消滅を論ずるまでもなく、以後賃料債権は発生しないことになるため、賃料債権の差押え債権者においてこれを取り立てることはできないことになる。

7 建物の賃料債権の差押えの効力が発生した後に、建物が譲渡され賃貸人の地位が建物譲受人に移転したとしても、建物譲受人は、賃料債権の取得を差押債権者に対抗することができないとする最三小判H10.3.24(判タ973‐143)と抵触しないかが問題となるが、平成10年判決は、賃貸借契約が存続し、賃貸人たる地位が建物譲受人に移転することを前提として、賃料債権の帰属が争われたものであり、賃貸借契約が終了し賃料債権の存否自体が問題となる本件とは場合を異にするものと考えられる。

8 もっとも、本件では差押債務者(賃貸人)と第三債務者(賃借人)が関連会社であること、原審係属中に譲渡され主張が追加されたこと等、執行妨害をうかがわせる事情も見受けられる。

9 本判決は、平成10年判決との関係で、混同に関する民法520条の適用の有無につき誤りが生じやすい事案について判断したものであり、実務上参考になる。