担保の取戻(民事保全規則17条)

1.民事保全規則17条4項5項
(1)保全命令発令後に、債務者が債権者に対して債務名義を得た場合(反訴の勝訴)等には、債務者が債権者(担保提供者)の担保取戻請求権を承継して、保全命令を発令した裁判所に対し担保取戻の許可を申立てることができる(17条4項)。
(2)債務者による担保取戻請求権の承継方法としては、
   ア 差押・転付命令
   イ 相続、合併
   ウ 債権譲渡
   が挙げられる。
2.上記1(1)の申立には、承継を証する書面を添付しなければならない(17条5項)。
(1)ウ 債権譲渡の場合には、a)債権譲渡契約書、b)供託書に対する対抗要件具備を証する書面の添付を要するところ、a)が私的書面であれば印鑑証明書の添付も要するため裁判所の和解によることも考えられる。また、b)は法務局への配達証明内容証明の添付を要する。
(2)また、ア 差押・転付命令の場合には、差押・転付命令正本とその確定証明書の添付を要する。
(3)なお、現実には債務者による申立は稀であるが、中ではア 差押・転付命令によるものが多い。
3.否認権との関係
(1)債権者の担保「取戻」請求権の承継による請求は、優先権のある(民事訴訟法77条)債務者の担保「還付」請求権(損害賠償請求権)の行使とは異なる。担保「還付」請求権は、損害賠償請求権の存在及び額を明らかにして行使するものであって(民事執行法193条)、上記2の行使方法とは異なる。
(2)そこで、債権者が破産手続開始決定を受けた場合、債務者の承継による担保「取戻」請求権の請求は、否認の対象となり得る(破産法162条1項1号等)。承継の方法として上記ア差押・転付命令によった場合であっても否認権の行使は妨げられない(破産法165条)。
(3)保全命令取消決定の損害のために、債務者(担保提供者・破産者)が提供した担保につき(民事保全法42条)、支払不能後、債権者が差押・転付命令によって取戻権を行使した場合も、上記と同様に否認の対象となるリスクがある。