遺産共有持分と他の共有持分との解消方法(最二小判平成25年11月29日判タ1396号150頁)

1.共有物について、遺産共有持分と他の共有持分とが併存する場合、共有者が遺産共有持分と他の共有持分との間の共有関係の解消を求める方法として裁判上採るべき手続は、民法258条に基づく共有物分割訴訟であり、共有物分割の判決によって遺産共有持分を有していた者に分与された財産は、遺産分割の対象となり、この財産の共有関係の解消については同法907条に基づく遺産分割によるべきである。

2.遺産共有持分と他の共有持分とが併存する共有物について、遺産共有持分を他の共有持分を有する者に取得させ、その価格を賠償させる方法による分割の判決がされた場合には、遺産共有持分を有していた者に支払われる賠償金は、遺産分割によりその帰属が確定されるべきものであり、賠償金の支払いを受けた者は、遺産分割がされるまでの間これを保管する義務を負う。

3.裁判所は、遺産共有持分を他の共有持分を有する者に取得させ、その価格を賠償させてその賠償金を遺産分割の対象とする方法による共有物分割の判決をする場合には、その判決において、遺産共有持分を有していた者らが各自において遺産分割がされるまで保管すべき賠償金の範囲を定めた上で、同持分を取得する者に対し、各自の保管すべき範囲に応じた額の賠償金を支払うことを命ずることができる。

4.本件土地はX1会社、X2及びその妻であるAの共有であったが、Aの死亡により、Aが有していた共有持分は夫であるX2及び子であるX3、Y1、Y2の4名の遺産共有状態となった。

5.遺産共有持分と通常の共有持分との併存が生じている場合には、まず遺産分割により遺産共有関係の解消をしてから共有物分割を行う方が問題が少なく、実際にもそのような手順が踏まれるのが通常であると思われるが、遺産分割の前提問題に争いがあり、訴訟手続において前提問題が解決されることなしには遺産分割を進めることができないような場合には、遺産分割未了のまま、共有物分割の訴えが提起されることがないわけではない。

6.原審は、本件土地の分割方法は、X1会社に本件持分を取得させ、X1会社からAの共同相続人らに価格賠償をさせる方法によるのが相当であり、この方法が採用された場合には、賠償金がAの共同相続人らの共有とされた上で、その後に他のAの遺産と共に遺産分割に供されることになるとして、Xらの希望するとおりの全面的価格賠償の方法による分割を採用した。
7.共有物分割の判決は、分割につき共有者間に協議が調わない場合に、裁判所が各共有者に従前の共有持分に代えてこれと等価の財産(現物又は金銭)を取得させることを定めるものであり、分割により各共有者に取得させる権利の内容は、裁判所が形成の裁判において適切に裁量権を行使して定めるべきものであることからすると、裁判所は、遺産共有持分と通常の共有持分とが併存する共有物の分割判決をする場合には、形成の裁判の一環として、遺産共有持分を有していた者らに取得させる財産が遺産分割の対象となるという性質決定をすることができると解してよいように思われる。

8.遺産共有持分を有していた者が持分取得者に対して取得する賠償金支払請求権は、その性質上不可分であって、遺産共有持分を有していた者らは、各自、持分取得者に対し賠償金全額の支払を求めることができるということになりそうである。
 そうすると、先払いを受けた者の費消等、他の相続人の権利の侵害を招くおそれがある。

9.裁判所が共有物分割の判決において各共有者に取得させる権利の内容を定めるに当たっては、8の点についても配慮して適切に裁量権を行使すべきであると考えられる。
 本判決(判決要旨3)は、このような観点から、形成の裁判の一環として、遺産共有持分を有していた者らが各自において賠償金を保管する権利を有し義務を負う範囲を定めた上で、持分取得者に対し、各自の保管すべき範囲に応じた額の賠償金の支払を命ずることができる旨を明らかにしたものであると思われる。

10.判決要旨3と同旨の考え方を明示した上で、遺産分割の対象となる賠償金の給付命令を含む共有物分割の判決をした事例は見当たらず、具体的な判決書の在り方については、今後の実務の中で工夫が重ねられていくことが期待されるが、遺産共有持分を価格賠償の対象とする共有物分割の判決をする場合における賠償金の給付命令は、その支払を受けた者に確定的に帰属させるのではなく、遺産分割がされるまでの間の保管をさせる趣旨で、金員の支払を命ずるという特殊なものであることに照らすと、その趣旨が当事者に誤解なく伝わるように判決中にその旨を明記すべきであろうし、各自に賠償金の保管をさせる範囲は、通常は、各自の法定相続分と等しい割合としておくのが、最も問題が少ないであろうと思われる。