推定相続人の死亡と遺言の効力

1 遺産を特定の推定相続人に単独で相続させる旨の遺産分割の方法
 を推定する「相続させる」旨の遺言は、当該遺言により遺産を相続
 させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合
 には、当該「相続させる」旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載
 との関係、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況な
 どから、遺言者が、上記の場合には、当該推定相続人の代襲者その
 他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の
 事情のない限り、その効力を生ずることはない。
  (平23.2.22第三小法廷判決)(判タ1344-115)


2 第1審
  原則として代襲相続するものと解するのが相当であり、そのよう
 に解することが当事者の意思にかなうものと判断。


3 特定の遺産を特定の相続人に相続させる旨の遺言の法的性質につ
 いては、最二小判平3.4.19により、遺贈とすべき特段の事情がなけ
 れば当該遺産を当該相続人をして単独で相続させる遺産分割の方法
 が指定されたものと解すべきであり、この場合には、特段の事情の
 ない限り、何らの行為を要せずに当該遺産は被相続人死亡時に直ち
 に相続により承継されるとされた。


4 平成3年判決は、「特定の遺産」を特定の相続人に相続させる旨
 の遺言が問題となった事案であるが、被相続人が「全ての遺産」を
 相続人のうちの一人に相続させる旨の遺言をした場合についても
 平成3年判決の趣旨が及ぶと考えられており、この場合には、遺産
 分割方法の指定と併せて、当該相続人の相続分を全部とする相続分
 の指定の趣旨も含まれていると解することとなる。最三小判平21.3
 .24は、これを前提としているものと解される。


5 東京高判平18.6.29判タ1256号175頁は、要旨、相続人に対する
 遺産分割方法の指定による相続は、法定相続分による相続と性質が
 異なるものではなく、代襲相続人に相続させるとする規定が適用な
 いし準用されると解するのが相当であるから、「相続させる」旨の
 遺言により遺産を承継するとされた相続人についても代襲相続が認
 められるという判断を示した。


6 本件最判からみれば、平成18年東京高判の事案では、「念のため
 に検討すれば」として、代襲相続を認めることが被相続人の意思に
 合致する旨の認定もされていたことから、結論には問題がなかった
 ということができる。


7 本判決がいう「特段の事情」は、平成18年東京高判の事案のように
 遺言に明示的に補充規定がない場合であっても認められることはある
 が、無用な紛争を避けるためには、今後、「相続させる」旨の遺言を
 する遺言者やその作成に関与する公証人、弁護士等は、「相続させる」
 と指定した推定相続人の方が遺言者より先に死亡する事態を想定した
 補充規定を置くことに常に留意することが期待される。


8 被相続人の遺産の承継に関する遺言をする者は、一般に、各推定
 相続人との関係においては、その者と各推定相続人との身分関係
 及び生活関係、各推定相続人の現在及び将来の生活状況及び資産そ
 の他の経済力、特定の不動産その他の遺産についての特定の推定
 相続人の関わりあいの有無、程度等諸般の事情を考慮して遺言を
 するものであるので、本件最判が相当。