損益相殺と給付(未来81頁)

1 控除の対象とならない給付を明らかにした判例は、いずれも
 それぞれの給付が、その性質から損害をてん補する性質を有する
 ものではないとし、判文中において、損益相殺の対象とならない
 旨を明言しているわけではない。


2 最判平成7年1月30日の判例解説は、同判例につき、「損益相殺と
 いう概念は、明確な輪郭をもつものではなく、損害算定に当たって
 の考え方の指標ないし目安にとどまるもの」として、損益相殺の
 概念を精緻化するよりも、「搭乗者傷害保険の性質性からアプロー
 チした方が、より適切な判決理由となると考えた」ものと理解した。


3 最判平成8年2月23日の判例解説は、特別支給金制度について労働
 福祉事業の一環として位置づけられ、代位や支給調整規定が設けら
 れていないことからすれば、被災労働者の損害と特別支給金の受給
 による利益の同質性は認められないとの理解を示している。


4 最判昭和58年4月19日判決
 「労働者に対する災害補償は、労働者の被った財産上の損害の填補
 のためにのみされるものであって、精神上の損害の填補の目的をも
 含むものではないから、上告人の慰藉料請求権には及ばない。


5 最判昭和62年7月10日判決
 ① 右保険給付と同一の事由については損害の填補がされたもの
  として、その給付の価額の限度において減縮するものと解され
  る。
 ② 保険給付と損害賠償とが「同一の事由」の関係にあるとは、
  保険給付の趣旨目的と民事上の損害賠償のそれとが一致する
  こと、すなわち、保険給付の対象となる損害と民事上の損害
  賠償の対象となる損害とが同性質であり、保険給付と損害賠償
  とが相互補完性を有する関係にある場合をいうものと解すべき。
 ③ 単に同一の事故から生じた損害であることをいうものでは
  ない。
 ④ 民事上の損害賠償の対象となる損害のうち、労災保険法に
  よる休業補償給付及び傷病補償年金並びに厚生年金保険法
  よる障害年金が対象とする損害と同性質であり、したがって、
  その間で前示の同一の事由の関係にあることを肯定することが
  できるのは、財産的損害のうちの消極損害のみであって、財産
  的損害のうちの積極損害(入院雑費、付添看護費はこれに含ま
  れる。)及び精神的損害(慰藉料)は右の保険給付が対象とする
  損害とは同性質であるとはいえない。