行政書士に、介護タクシー事業を営もうとする者に対する、手続選択に関する信義則上の助言・説明義務違反が認められるとして、契約締結上の過失に基づく損害賠償責任(不法行為責任)が認められた事例(大阪高判平成26年6月19日判タ1409号255頁)

1.不特定多数人を顧客とする介護タクシー事業を営むことを計画している依頼者に対し、特定旅客事業の許可申請手続をした行政書士が、契約上の過失に基づく損害賠償を求められた事案。行政書士(原告)が、依頼者側(被告ら)に対して未払い報酬と費用の支払いを求めたのに対し、被告が本件契約を解除し、解除による原状回復請求及び債務不履行による損害賠償請求(反訴)をした。
2.介護タクシー事業の許可には、「一般旅客事業の許可」、「特定旅客事業の許可」、の2つがあり、「特定旅客事業の許可」は、介護保険法により、輸送対象者が要介護や要支援の認定を受けた者等に限られ、輸送目的も申請会社が営む介護事業所から病院等への通院などを目的とするものに限られる。そのため、本件依頼者(被告)の場合、「一般旅客事業の許可」が必要であった。
3.原審は、原告が既に本件契約に基づく債務を全部履行しており、また債務不履行も認められないと判断して、原告側の本訴請求を全部認容し、被告の反訴請求を全部棄却した。被告は控訴審において、訴えの一部を債務不履行による損害賠償請求権から不法行為による損害賠償請求権に変更した。
4.本判決は、原告の誤ったアドバイスにより、被告が、自らが想定している営業形態に適合しない、「特定旅客事業の許可」申請を依頼するに至ったと認定・判断して、原告に対して58万5000円の賠償を命じた。原審と同様に、原告の本訴請求は全部認容し、被告の債務不履行に基づく損害賠償請求等は棄却したが、被告の契約締結上の過失(不法行為)に基づく損害賠償請求は一部認容した。
5.契約締結上の過失とされるものには、債務不履行責任を負う場合と、不法行為責任を負う場合がある。「契約の一方当事者が契約の締結に先立ち信義則上の説明義務に違反して契約の締結に関する判断に影響を及ぼすべき情報を相手方に提供しなかった場合」には、不法行為責任を負うことはあっても債務不履行責任を負うことは無いとされており(最二小判平成23年4月22日判タ1348号87頁)、本判決もそれにしたがって債務不履行責任ではなく、不法行為責任を認めている。