相続分の全部を譲渡した者と遺産確認の訴えの当事者適格(最判H26.2.14判タ1410-75)

1.共同相続人のうち、自己の相続分の全部を譲渡した者は、遺産確認の訴えの当事者適格を有しない。
2.共同相続人のうち自己の相続分の全部を譲渡した者は、積極財産と消極財産を包括した遺産全体に対する割合的な持分を全て失うことになり、遺産分割審判の手続等において遺産に属する財産につきその分割を求めることはできないのであるから、その者との間で遺産分割の前提問題である当該財産の遺産帰属性を確定すべき必要性はないというべきである。
3.固有必要的共同訴訟である遺産確認の訴えにおいて、共同相続人が自己の相続分の全部を譲渡した場合に、その者が同訴えの当事者適格を有するか否かが問題とされた事案。
4.共同相続人である被告ら9名のうち4名が訴え提起前に自己の相続分全部を他の共同相続人に譲渡していたことが明らかとなり、原告らは同被告らに対する訴えを取り下げ、第1審は、この取下げが有効であることを前提に、第1事件(被相続人が所有していた複数の不動産の遺産確認請求)及び第2事件(不動産の一部を占有している者に対する明渡請求)の各請求をいずれも棄却した。しかし、原審は、相続分の譲渡には相続放棄のような遡及効がなく、譲渡人は共同相続人としての地位を失わないから遺産確認の訴えの当事者適格を喪失しないとして、固有必要的共同訴訟における共同被告の一部に対する訴えの取下げを無効とする判決(最判H6.1.25判タ857-109)に照らし、第1審の訴訟手続を違法としてこれを取り消し、本件を第1審に差し戻した。
5.遺産確認の訴えは、遺産分割手続(当事者間の協議又は家庭裁判所の調停、審判によって行われる。)の前提問題の1つであり、共同相続人間で遺産帰属性について争いがある場合に、当該財産が遺産に属すると主張する共同相続人が、これを否定する共同相続人を被告として、当該財産が遺産に属することの確認を求める訴えである。
6.相続分の譲渡は、遺産分割のように効力が相続開始時に遡る旨の規定がないため、譲渡の時に効力を生ずるものとされる。相続分の譲渡によって、譲渡の当事者間では相続債務も移転するが、同譲渡は債権者の関与なくして行われるものであるから、譲渡人が対外的に債務を免れるものではないと解されている。
7.検討するに、遺産確認の訴えは、遺産分割に係る家事調停・家事審判手続の進行の基礎となるものであり、遺産分割の前提問題の解決という機能を有するものであるから、その後に予定される遺産分割手続の当事者となるべき者が、遺産確認の訴えの当事者適格の判断基準とされると考えるのが自然である。