「甲代理人乙」名義の預金の帰属
1 株式会社甲を債務者とする債務名義に基づく「株式会社甲代理人
弁護士乙」名義の口座に係る預金債権の差押えが認められなかった
事例(判タ1343-240)
2 債権者が、株式会社甲を債務者とする再生債権者表正本を債務名義
として、「株式会社甲代理人弁護士乙」名義の口座に係る預金債権の
差押命令及び転付命令を求めて申し立てたところ、原決定が、当該
預金債権が債務者の責任財産に帰属するものであることが証明されて
いるとはいえないとして、当該申立てをいずれも却下した。
3 実務上は、外形上債務者の責任財産と認められない他人名義の債権
については、債権者が同債権は真実債務者の責任財産であることを
証明した場合に限り、差押命令を発令することができると解されて
いる(東京高決平14.5.10判タ1134-308)。
4 本件のように代理人名義の口座に係る預金債権の帰属について直接
判断された事例はこれまでのところ見当たらない。
5 受任者は委任事務に係る預金を自由に使うことはできず、委任事務
の終了時に預り金の返還義務を負うとしても、受任者が委任者に返還
しなければならないのは、預かった金銭ないしその一部そのものでは
なく、清算の結果、残額が算出された場合における、同額の金員に
すぎず、その計算関係を明瞭にするために独立の預金口座を設けてい
たとしても、当該預金そのものが委任者に帰属すると解さなければ
ならない理由にはならない。
6 本決定は、再生手続事件を受任した弁護士は、多数の債権者の
有する権利の優先性に応じ、かつ限られた責任財産の範囲内で、同順
位の債権者を公平に扱う必要が生じるという職務の特質等に着目して、
本件口座に係る預金債権が債務者の責任財産に帰属するものであるこ
とが証明されているとはいえないとしたものである。