◇ 権利能力のない社団を債務者とする金銭債権を表示した債務名義を有する
  債権者が強制執行をしようとする場合における申立ての方法(金法1904-111)


1 権利能力のない社団を債務者とする金銭債権を表示した債務名義を有する
 債権者が、当該社団の構成員全員に総有的に帰属する不動産に対して強制執行
 をしようとする場合において、上記不動産につき、当該社団のために第三者
 がその登記名義人とされているときは、上記債権者は、強制執行の申立書に、
 当該社団を債務者とする執行文の付された上記債務名義の正本のほか、上記
 不動産が当該社団の構成員全員の総有に属することを確認する旨の上記債権者
 と当該社団および上記登記名義人との間の確定判決その他これに準ずる文書
 を添付して、当該社団を債務者とする強制執行の申立てをすべきであり、上記
 債務名義につき、上記登記名義人を債務者として上記不動産を執行対象財産
 とする執行文の付与を求めることはできない(最判H22.6.29)。


2 本件は、権利能力のない社団であるAを債務者とする金銭債権の債務名義
 を有するXが、本件不動産はAの構成員全員の総有に属する不動産であり、
 その登記名義人であるYは民事執行法23条3項所定の「請求の目的物を所持
 する者」に準ずる者であると主張し、上記債務名義につき、Yを債務者として
 本件不動産を執行対象財産とする同法27条2項のいわゆる承継執行文の付与
 を求める、執行文付与の訴えである。


3 権利能力のない社団も、民事訴訟法および民事執行法上、当事者能力を有
 するから(民事訴訟法29条、民事執行法20条)、債権者は、社団を債務者と
 する金銭債権の債務名義を取得することができ、社団の構成員全員の総有に
 属する財産に対して強制執行をすることもできる。


4 権利能力のない社団の構成員の総有不動産の登記方法について、最二小判
 昭47.6.2は、社団の代表者が個人名義で登記をすることはできるが、社団を
 権利者とする登記または社団の代表者である旨の肩書を付した代表者個人
 名義の登記をすることは許されないとしている。


5 登記名義人と執行債務者たる権利能力のない社団との関連性を明確に示す
 ことができない不動産を執行対象として選択するのは、他に適切な執行対象
 財産が存しない場合であるから、執行債権者は、当該権利能力のない社団に
 代位して、当該権利能力のない社団において登記名義人たることとされる
 名義人への移転登記手続を請求し、その移転登記手続を経たうえで、執行
 手続をなすことが望ましいとはいえる。


6 証明文書の意義
  登記名義人を構成員の特定の者(個人又は一定の役職者等)とすることを
 定めた規約(公正証書又はそれに準ずる証明度の高い文書による。)などが
 考えられる。


7 債権者代位権に基づく処分禁止の仮処分手続の方が、保全手続としては仮
 差押の申立てができるとしても、実務上親和性があるといえる。