抵当権と賃借権の時効取得の対抗関係(判タ1342-96)

1 不動産につき賃借権を有する者がその対抗要件を具備しない間に、
 当該不動産に抵当権が設定されてその旨の登記がされた場合、上記
 の者は、上記登記後、賃借権の時効取得に必要とされる期間、当該
 不動産を継続的に用益したとしても、競売又は公売により当該不動
 産を買い受けた者に対し、賃借権を時効により取得したと主張して、
 これを対抗することはできない。(平23.1.21第二小法廷判決)



2 所論引用の上記判決(準則5)は、不動産の取得の登記をした者
 と上記登記後に当該不動産を時効取得に要する期間占有を継続した
 者との間における相容れない権利の得喪にかかわるものであり、
 そのような関係にない抵当権者と賃借権者との間の関係に係る本件
 とは事案を異にする。



3 1審判決は、本件抵当権設定登記の後に引き続き借地権の時効取得
 に必要な期間占有を継続した被告Y1は、時効取得した借地権を、
 抵当権者ひいては原告Xに、登記なくして対抗することができるとして、
 原告の請求をいずれも棄却した。



4 抵当権と用益権との関係については、同一目的物上に抵当権と用益権
 とが設定された場合、抵当権と用益権とは衝突することなく共存するが、
 抵当権が実行されて目的物が買受人に移転すると、用益権と買受人の
 所有権とが衝突し、買受人の取得した所有権が用益権の付着したもの
 であるか否かが問題となり、この点は用益権と抵当権の対抗要件
 よって解決される。



5 学説上、所有権の時効取得と登記について の判例の考え方は、
 5つの準則に整理して論じられている。



6 (準則5)しかし、Bは、Dの登記後、さらに取得時効に必要な
 期間占有すれば、Dに対し、登記なしに時効取得を対抗できる。



7 抵当権賃借権という本件の事例では、抵当権は用益を内容とする
 権利ではなく、賃借権と両立し得るのであり、賃借権を時効取得す
 る者が現れたとしても、その反面で賃借権の負担を受けるのは抵当
 権者ではなく所有者であるから、抵当権者と賃借権の時効取得者と
 の間においては権利の得喪は生じず、この間に対抗要件なしに賃借
 権の取得を主張することができるような権利変動の当事者に準ずる
 関係が生じるわけではない。