転貸賃料債権と物上代位 (判例解説)

1.抵当権者は、抵当不動産の賃借人を所有者と同視することを相当とする場合を除き、右賃借人が取得する転貸賃料債権について物上代位を行使することができない。(最判平成12年4月14日)


2.抵当不動産の賃料債権に対する物上代位を価値権説の立場から説明することには、多くの難点があり、賃料(使用料)を元本価値の一部であるとすることは、使用収益により元本価値の減少しない土地については適切ではない。


3.最二小判平成元・10・27は、賃借権設定と抵当権設定との先後に関係なく物上代位を認める肯定説を採ることを明らかにした。


4.平成元年判決以降原決定までの間の判例による一応の結論は、次のようになろう。
(1) 抵当権は、賃借権設定の先後を問わず、抵当不動産から生ずる賃料債権に当然に及ぶ(平成元年判決)
(2) 複数の物上代位が競合したときは、差押えの先後ではなく、抵当権の順位により、優先配当を行う
(最二小判平成10.3.26)
(3) 物上代位を主張する者は、自ら当該請求権に対する差押えを要件とする(最二小判平成10.1.30)
(4) 抵当不動産の賃料が債務者又は譲受人に支払われ、あるいは物上代位のための差押えをした劣後債権者に配当されても、物上代位のための差押えをしない債権者は、当該請求権に対する優先権を喪失し、賃料受領者に対して不当利得返還請求権を有するものではない((3)からの帰結)。
(5) 賃料債権に対する物上代位・差押えの要件として被担保債権の弁済期到来を要するか。特権(物権)説によれば、実定法の規定が根拠となるところ、民事執行法は物上代位の差押えを他の差押えと区別していないから(同法193条)、これを要するとするということになろう。


5.現在では、賃料債権に対する物上代位の理論的根拠は特権(物権)説により説明。


6.「右対価について抵当権を行使することができるものと解したとしても、抵当権設定者の目的物に対する使用を妨げることにならないから、前記規定に反してまで目的物の賃料について抵当権を行使することができないと解すべき理由はない」(平成元年判決)というものである。


7.調査官解説には、この判決の特徴として、
(1) 賃料が交換価値の一部実現であるとする点を論拠としておらず、いわゆる価値権説よりは特権説ないし物権説に傾斜したものと見ることもできる点
(2) 理由は簡単に記載されているものの、規定の趣旨に照らして形式的な判断によって肯定説をとったというよりは、執行手続が形式的画一的な処理を前提とし、具体的な事実の認定に適さない手続であるということをも考慮して、実質的にも、解釈論としては全面的な肯定説を採るべきものとした点が挙げられている


8.「所有者と同視することを相当とする場合」とは、「所有者と同視することできる場合」よりは広く物上代位を認めようとしたものと思われるが、所有者と同視することができなければ、「債務者」にはならないであろうから、それほどの相違はないものと思われる。


9.運用基準では物上代位権の対象になるが、真実は独自の転貸利益を有する賃借人の救済は、執行抗告にゆだねることとして、大局的に合理的・妥当な線が出せれば足りる