◇ 破産手続開始後、賃料が差し押さえられ、賃借人は賃料を破産管財人
ではなく差押債権者(抵当権者)に弁済すべき場合が生じることになるが、
この場合に、上記のような破産法70条後段による敷金返還請求権の保護が
図られるであろうか。
1 一般に賃料債務の弁済は、停止条件付債権である敷金返還請求権の停止
条件付債権である敷金返還請求権の停止条件の成就を解除条件としたもの
であり、解除条件の成就によって賃料債権の(立法者解説)弁済がその
効力を失い、相殺が可能になると解されるという理解である。
2 敷金返還請求権の成立条件が整った段階で、賃料の弁済は効力を失い、
その結果未払いとなった賃料債務と敷金返還請求権の間に充当関係が
生じる。
3 条文をそのまま見るとき、この場合も「敷金の返還請求権を有する者
が破産者に対する賃料債務を弁済する場合」との要件に該当することは
明らかである。
4 本来は弁済に解除条件を一方的に付けるということが許されるはずは
ないが、破産法のこの条文が特にそのような権限を弁済者に付与したも
のであるとすれば、そのような第三債務者の地位が債権差押えによって
失われてよいはずはない。
5 そうすると、差押債権者がその利得を保持する根拠はなくなり、賃借
人は抵当権に対する不当利得返還請求をすることができることになる。
6 敷金返還請求権が発生したときに解除条件が成就し、銀行に弁済した
賃料が不当利得となり、銀行から返還を求めることができる。
7 他方で、弁済していた賃料相当額は破産財団の不当利得となるところ、
寄託金から財団債権(破148条1項5号)として、弁済賃料分が返還され
る。
8 つまり、
① 賃料が未払債務となり現実化し、敷金返還請求権と相殺して賃料
債務は消滅する。
② そうすると、賃料分が非債弁済となり、不当利得となり、破148条
1項5号により財団債権となる。