前払保証金(金法1906)

1 前払金の支払の制度は、請負者の資金調達を確保するとともに、請負契約
 解除の場合に地方公共団体が確実に前払金の返還を受けられるようにする
 ことが目的である。


2 出来確認が行われた時点で、公共団体に返還されるべき前払金が存在しな
 いことが確認されたものである。出来高確認の結果、破産財団に帰属すべき
 残余財産の額も確定したとはいえる。


3 出来高確認よりも前の時点では、本件信託契約の目的を達成し又は目的を
 達成することができなくなったとして信託が終了した上、破産管財人に帰属
 すべき残余財産が特定したものと解することはできず、未だ残余財産として
 破産財団には移転していないというべきである。


4 保証中に、工事が請負者の責任で工事続行不能となった場合に、工事出来
 高が既払金を下回っていればその部分に相当する額を、保証会社が請負者に
 代わって発注者または工事完成保証人へ弁済する。保証会社は、上記弁済に
 より、前払金返還請求権および前払金預金残金返還請求権に弁済代位する
 ことになる。


5 制度の詳細なあらましは、「公共工事の前払金保証制度における前払金
 専用口座の法的性格」(金法1627号42頁)


6 委託者ないし保証会社は、対抗要件なくしてもその権利移転を対抗でき、
 預金債権の自己への帰属を主張できる。保証会社は、破産管財人に対し、
 預金名義の変更を請求することができる。


7 前払金預金債権は通常の普通預金とは異なることはなく、これに対し業者
 への貸付金との相殺の期待を有するのは、妥当と考えられるとの考え方も
 ある。


8 否定説の論拠
  ① 銀行が、このような債権に対して有する相殺の期待は希薄である。
  ② 特定の目的、とくに下請業者に帰属させるとの目的のために預託され
    た預金は、相殺には供し得ないというものであった。
 これに対し、
  ① 停止条件付債務に関する相殺に関する最近の学説の趨勢は、本件の
    ような相殺にも当てはまる。
  ② 信託当初の目的は既に消滅しているし、破産手続中で下請人が優先的
    に配当に預かれる保障もなく、相殺が個別具体的な事情から破産債権
    者間の公平を害すると見られる場合には、最判平成17年にいう「特段
    の事情」か相殺権濫用で対処すればよいとの反論がなされた。