無委託保証と相殺の禁止

1 保証人が主たる債務者の破産手続開始前にその委託を受けないで締結した保証契約に基づき同手続開始後に弁済をした場合において、保証人が主たる債務者である破産者に対して取得する求償権は、破産債権である。


2 保証人が主たる債務者の破産手続開始前にその委託を受けないで締結した保証契約に基づき同手続開始後に弁済をした場合において、保証人が取得する求償権を自働債権とし、主たる債務者である破産者が保証人に対して有する債権を受働債権とする相殺は、破産法72条1項1号の類推適用により許されない。(平24.5.28判決)(判タ1375-97)


3 被上告人は、各破産者の破産手続開始前に、その委託を受けないで、各破産者の債務について、その債権者との間において保証契約を締結し、破産手続開始後に同契約に基づき保証債務を履行して各破産者に対し求償権を取得したとして、同求償権を自働債権とする相殺を主張している。


4 原審は、本件のように保証人が取得するに至った求償権は「破産債権」になるとし、かつ、本件の求償権を自働債権とする相殺は、破産法において「禁止されていない」として、被上告人がした相殺を認めた。


5 [相殺の禁止]
破産者に対して債務を負担する者が、破産手続開始前に債務者である破産者の委託を受けて保証契約を締結し、同手続開始後に弁済をして求償権を取得した場合、この求償権を自働債権をする相殺は、破産債権についての債権者の公平・平等な扱いを基本原則とする破産手続の下においても、他の破産債権者が容認すべきものであり、同相殺に対する期待は、破産法67条によって保護される合理的なものであること、これに対して、無委託保証人が破産者の破産手続開始前に締結した保証契約に基づき同手続開始後に弁済をして求償権を取得した場合に、この求償権を自働債権とする相殺を認めることは、破産者の意思や法定の原因とは無関係に破産手続において優先的に取り扱われる債権が作出されることを認めるに等しく、この場合の相殺に対する期待を、委託を受けて保証契約を締結した場合と同様に解することは困難である(判旨)


6 [破産債権か否か]
委託保証の場合は、求償権発生の主たる原因は破産手続開始前にあり、求償権は破産債権となるのに対し、無委託保証の場合は、求償権発生の原因は、破産手続開始後の弁済の時点にあり、求償権は破産債権とはならないとする説も唱えられるようになってきていた。