1 具体的な事例の判断においては、抵当権設定日、賃借権の締結日・対抗要件
具備日、差押登記日等、判断の基準となる年月日順に整理し、慎重に検討しな
ければならない。
2(1) 平成15年改正前の民法395条が適用される賃借権
① 平成16年3月31日までに締結されたもの(同日以降に更新されたものを
含む。)
更新は、法定更新だけでなく、合意更新も含む。
② 建物については3年、土地については5年を超えないもの。
③ 抵当権の登記後に対抗要件を備えたもの。
(2) 効果:平成15年改正前の民法395条が適用され、短期賃貸借による保護の
可能性が生じるが、明渡猶予は認められないことになる。
3(1) 平成15年改正後の民法が適用される賃借権は、買受人の引受けになるか
否かは、最先抵当権設定登記(強制競売の場合は差押登記)に優先するか否か
で定まることになる。
(2) 引受けにならない場合
効果:原則として、代金納付から6ヶ月は、買受人に対する引渡しを猶予
される。
4① 3年を超える建物賃借権
平成16年3月31日までに締結されたものであっても、明渡猶予の保護を
受ける(附則5条により、旧法の適用がない。)。
② 平成16年3月31日までに締結された3年を超えない建物賃貸借
引受けとならない場合でも、明渡猶予の保護はない(旧法が適用される
。)。
③ 差押後、売却までに期限経過となる、3年を超えない建物賃借権
平成16年3月31日までに締結されたものは、引受けとならない。明渡
猶予の保護もない(旧法が適用される。)。
同4月1日以降に締結されたものは、引受けとはならないが、明渡猶予
の保護を受ける(期限経過は明渡猶予の保護には関係がない。)。
④ 抵当権の設定がない物件
明渡猶予の保護はない(民法395条の適用がない。)。
5 契約締結が平成16年4月1日より前である賃借権
短期賃借権を引き受ける。期間の定めのない建物賃貸借は、3年の期間を
超えないものとして取り扱われる。
法定更新後は期間の定めない賃貸借となるが、合意更新された場合は当該
合意で定められた期間が存続期間となる。
当初3年を超える期間の賃貸借であったが、法定更新された場合、買受人
の引受けとなるかについてはいくつかの見解がある。
6 期間の定めがある短期賃借権においては、実務上、競売のための差押え以降
の更新は買受人に対抗できないものと解されている。
7 合意更新であれば、更新後の期間が差押え後に満了した場合には期間切れ
の短期賃借権として引受けとならないのに対し、法定更新された建物賃貸借は
期間の定めのない契約となり期間切れの問題が生じないからである。
Aの賃借権は、法定更新後は期間の定めがないものとなるので、競売による
差押え後も期間満了することなく短期賃貸借として買受人の引受けとなるのに
対し、Bの賃借権は、更新時の合意内容どおり競売手続中に期間が満了し、
その後の更新(種類を問わない。)は差押えに後れるものとして買受人に対抗
できないため、買受人は短期賃借権を引き受けない。