◇ 重大な瑕疵がありこれを建て替えざるを得ない場合に、当該建物に居住して
いたという利益を損益相殺等の対象として損害額から控除することの可否
−平22.6.17第一小法廷判決(判タ1326-111)−

 〔Xらは、Y1から鉄骨スレート葺3階建ての居宅(本件建物)を購入した。〕
 〔Y4はY3に雇用されている一級建築士である。〕


1 やむなく居住しているものと推認できることなどの事情の下では、Xらに損益
 相殺の対象とすべき利益があるとすることはできない。
  控除肯定説
  控除否定説

2 本判決は、その理由を特段示してはいないが、買主による居住は自らの身を
 危険にさらすことを意味するものであって、そこに居住していたことを利益と
 みることができないのはいわば当然の理であるように思われる。

3 本判決は、その認定説示からすれば、買主が瑕疵の存在を認識していたか否
 かによって結論を異にするものではないと解される。
  経年減価控除説に立つYらの主張を排斥した。
  不法行為に基づく損害賠償が請求された場合について判示したものではある
 が、その射程は請負人の瑕疵担保責任に基づき損害賠償請求をする場合にも
 及ぶことになろう。

4 あくまで建物が社会経済的な価値を有しないと評価すべきものである場合
 には居住利益を控除できないことを判示したものであり、建て替え費用相当額
 の損害賠償が認められる場合にはおよそ居住利益ないし使用利益の控除ができ
 ないことをいうものではない。
  瑕疵のある建物が社会経済的な価値を有する場合であっても建て替え費用
 相当額の損害賠償が認められる余地があることをいうものではない。

5 最三小判平14.9.24は、請負人の瑕疵担保責任等に基づく損害賠償が請求さ
 れた事案において、「建物に重大な瑕疵があるためにこれを建て替えざるを得
 ない場合」には建て替え費用相当額の損害賠償を請求することができるとして
 いるが、この場合以外に建て替え費用相当額の損害賠償を認める余地があるか
 否か、建て替えが認められるべき「重大な瑕疵」には契約の約定に反した工事
 が行われた場合も含むのか否か等については、同判決によってもなお残された
 問題である。