土壌中に有害物質を含む土地売買契約

1 工場跡地をガソリンスタンド用地として購入した売買契約において、土壌中に有害物質が含まれていたことが判明した場合について、買主の錯誤による無効が否定され、また、売主の瑕疵担保責任、売主の説明義務違反による債務不履行責任が否定された事例(判タ1406号290頁 東京地裁平成24年5月50日判決)
2 事案の概要
  本件土地の土壌に当時の環境基準法による基準を超える汚染物質が検出されたとして、(1)土壌汚染が無いことは契約の動機であるが、Yから土壌汚染があったがその浄化が完了していることを保証するよう申し入れて動機を表示し、土壌汚染が無いと信じて売買契約を締結したのであるから錯誤があり、売買契約が無効であると主張して、不当利得返還請求権に基づいて売買代金の返還を請求し、(2)土壌汚染があったことは隠れた瑕疵であるとして、瑕疵担保責任に基づき売買代金相当額の損害賠償を請求し、?汚染物質が含まれていることを説明しなかったことが説明義務に違反するとして債務不履行に基づき売買代金相当額の損害賠償を請求する事案。
  本件土地については、売買契約の約4年前に土壌汚染についての公的な調査により汚染物質(有機塩素系化合物)が発見されたことから、浄化作業が実施されており、Xらに対して、売買契約に先立って、この調査及び浄化作業の概要を記載した報告書が提示されていた。
3 本判決は、錯誤の主張については、Xらの主張の錯誤をいわゆる同期の錯誤であるとし、売買契約の締結当時、本件土地には当時の環境基準を超える汚染物質が存在していたが、Xらが本件土地の汚染物質が完全に除去されていたと認識していたとは認められないものの、環境基準を大幅に超える汚染物質が存在するとは考えておらず、この点で事実と認識に齟齬があったと認定した。しかし、Xらの本件土地の購入の動機、売買価格の決定、Xらが汚染物質によるガソリンスタンドの地下設備等に関する悪影響を懸念していたが、ガソリンスタンドの利用者等への健康被害を懸念していたとまではいえないことなどを考慮すると、上記の程度の汚染物質が存在しないことを購入の動機として表示していたとは認められないと判断し、錯誤無効の主張を排斥した。
  売買契約当時の価格決定において土壌汚染が考慮要素として取り扱われていなかったこと、本件土地の購入目的がガソリンスタンド用地の確保であったことを考慮すると、売買契約において上記程度の汚染物質が含まれていないことが予定されていたとは認められないとして、説明義務違反の主張については、Yが必要な限度での説明をしていたといえるとした。
4 土壌汚染が問題となった裁判例
(1)土地の売買契約後に法令に基づく規制の対象となったフッ素が基準値を超えて含まれていたことが土地の瑕疵に当たらないとした最三小判平22.6.1(判タ1326号106頁)
(2)工場跡地の売買契約において、土壌中にアスベストが含有されていたことについて売主の瑕疵担保責任が否定された事例(東京地判平24.9.27 判示2170号50頁)
5 本判決の事案には、土地の売買契約が土壌汚染対策法施行の約4年半前であるが、土壌汚染についての公的な調査と浄化作業が行われ、その結果が買主であるXらに提供されていること、売買契約から約10年が経過した後に、Xらが隣地で土壌汚染物質が検出されたことを契機に本件土地について土壌緯線の調査を行い、汚染物質が検出されたことから問題が顕在化するという経過をたどっていること、本件土地がガソリンスタンド用地として購入され使用されていることなどに特徴があると思われる。