認知症対応型共同生活介護サービスを提供するグル―プホームの2階の居室の窓から認知症高齢者である入居者が自ら転落して受傷した事故について、当該施設は通常有すべき安全性を欠いており、設置又は保存の瑕疵があったとして、工作物責任を肯定した事例(東京地判平成29年2月15日判タ№1445号219頁)

1 本件は、Yが認知症対応型共同生活介護サービスを提供するグループホーム(本件施設)の2階の居室(本件居室)の窓(本件窓)から地上に転落して受傷したA(当時93歳)及びその長女であるXが、本件施設には居室の窓からの転落を防止するための措置が講じられておらず、設置又は保存の瑕疵があるなどと主張した事案である。
2 本判決は、工作物の設置又は保存の瑕疵とは、当該工作物の構造、用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的個別的に判断すべきものであると述べた上で、本件施設のように認知症対応型共同生活介護サービスを提供するグループホームにおいては、認知症高齢者が帰宅願望によって窓から脱出を試みて転落する危険性が高いため、このような事故を防止するために、施設の設置又は保存について十分な措置を講じるべきであると認められること、本件ストッパーは、本来は窓が全く開かないように設置することが想定されているにもかかわらず、本件窓に置いては、ロックした状態でも22.5センチメートルまで開けることができるように中間止めの方法で設置されており、そのため、認知症高齢者であっても、本件ストッパーを取り外そうと押したり引っ張ったりしているうちに、鍵を使わずに取り外してしまう現実的な危険性があったと認められる、とした。
3 本件は、身体拘束の問題について言及している点も含め、今後の実務の参考になるものと思われる。
 裁判例を分析して検討した文献として、「医療・介護施設における高齢者の事故についての損害賠償請求に係る諸問題」(判タ1425号69頁)も参考になる。