所有権の更正の登記

1.権利の更正の登記は、既にされた権利に関する登記について、
 ア「当初」の登記手続に錯誤又は遺漏があるため、
 イ その一部に登記と実体関係との間に「原始的」な不一致がある場合において、これを訂正補充する目的でされる登記であり、
 ウ この更正の登記は「既存の登記が有効」であることを前提とし、かつ
エ 更正登記の前後にその「同一性」が認められるものでなければならない

2.所有権の保存又は移転の登記に錯誤又は遺漏があった場合、これを実体関係に合致させる方法としては、
 ア 所有権の更正の登記
 イ 真正な登記名義の回復を原因とする所有権(全部または一部)の移転の登記
 ウ いったん抹消の登記をした上、改めて実体関係に合致した登記をする方法
がある。

3.最高裁昭和38年2月22日第二小法廷判決は、相続不動産につき単独の所有権移転の登記を経由した共同相続人中の乙及び乙から所有権移転の登記を受けた第三取得者丙がある場合において、各移転登記は乙の持分に関する限り実体関係に符合しており、また、他の共同相続人甲は、自己の持分についてのみ妨害排除の請求権を有するにすぎないから、甲がその共有権に対する妨害排除として、各所有権登記を実体的権利に合致させるため、乙及び丙に対し請求できるのは、その全部抹消ではなく、甲の持分についてのみの一部抹消(更正)登記手続でなければならないとしている。

4.更正登記自体が実体法上生ずることのない物権変動を原因とする登記を行うようなものであるときは、更正登記の方法によることはできない。(→13)

5.甲・乙が共同相続した不動産につき、甲・乙間の遺産分割協議により、乙が単独取得する旨の協議が成立したが、誤って甲の単独所有とする相続登記がされた場合、当該登記を乙の単独所有とする登記に更正することは、更正登記の要件である「同一性」の要件を欠き、許されない。

6.登記先例は、甲所有名義の登記を乙所有名義に更正すること、あるいは甲・乙共有の登記を丙の単有名義に更正することは、同一性の要件を欠き、許されないとする(昭和53年3月15日民三1524民事局第三課長依命回答)。

7.甲所有の不動産につき、甲と乙及び丙との間に、乙・丙両名の持分を2分の1ずつとする売買契約を締結したが、後日、甲及び乙が通謀して甲から乙への単独所有の所有権移転の登記をしてしまった場合、丙を登記権利者、「甲及び乙を登記義務者」として、乙の単有名義の移転登記を乙の持分2分の1、丙の持分2分の1とする共有名義の移転登記に更正する登記を行うことになる。

8.登記義務者を乙及び甲をする共同申請によるべきとするのが登記実務の立場である(昭和36年10月14日民甲2604回答、昭和40年8月26日民甲2429民事局長回答)

9.丙は、甲に対して、自己の持分についての移転登記請求権を有し、甲はこれに応ずる登記義務を負っていること、この更正登記の実質は甲から乙への登記の一部を抹消し、改めて甲から丙へこれを移転するものというべきであるから、甲をも登記義務者とするのが相当であるとの趣旨に出たものである。

10.更に、乙から第三者丁への売買による所有権移転の登記がされていたときには、丙が自己の持分2分の1の登記名義を取得するには、甲及び乙に対し、乙単有名義の登記を乙・丙共有の登記に更正すべきことを求めるとともに、丁に対し、その所有権移転の登記を乙の持分全部移転の登記に更正すべきことを求める必要があります。

11・登記先例は、所有権の一部移転の登記を受けた者から、その持分についてのみ順次移転を受けたが、申請の錯誤により、いずれも所有権の移転として登記されている場合の更正登記手続は、「最後の登記から順次逆に」各移転登記の更正登記を申請すべきであるとしている(昭和41年5月13日民甲1180民事局長回答)

12.主文例
被告甲及び同乙は、原告に対し、別紙物件目録記載の不動産につき、○○法務局平成○年○月○日受付第○○号の所有権移転登記を錯誤を原因として、原告及び被告乙の持分を各2分の1とする更正登記手続をせよ。

13.第三小判平成11年3月9日判時1672号64頁
 被相続人の生存中に売買を原因として相続人の1人に対する所有権移転登記がされた場合、被相続人の死亡後に、右登記を相続を原因とするものに改めるとの更正登記手続をすることはできないものと解すべきである。
けだし、右登記がされた当時被相続人は生存中で、同人につき相続が開始することがありえないのは明らかであり、右更正登記手続は、帰するところ、実体法上は生ずることのない物権変動を原因とする登記を行うものであって、これを認めることはできないからである。(→4)

14.登記実務では、数次の相続により不動産の所有権が順次移転したが、登記名義は依然として第1次相続の被相続人名義のままである場合、第1次及び中間の相続が単独相続であるとき(遺産分割、相続放棄又は他の相続人に相続分のないことによる単独相続の場合を含む。)に限り、「年月日何何某相続年月日相続」の例により、登記原因及びその日付を連記した上で、登記名義人から最終の相続人名義に直接相続登記を申請することができるものとされています(昭和30年12月16日民甲2670民事局長通達)。

15.甲名義の不動産につき、甲から乙、乙から丙へと順次相続したことを原因として、直接甲から丙への「数次相続」による登記がされている場合において、実際は甲から乙及び丁が共同相続していたにもかかわらず、乙が単独相続したものとして、その第2相続人丙への数次相続による登記がされていたという場合、第1次相続人の丁が自己の持分を登記上回復するにはどのような方法を採ることができるかという問題が生じる。

16.最高裁平成17年12月15日判決は、更正登記は更正の前後を通じて登記としての同一性がある場合に限り認められるところ、原判決が判示する更正登記手続は、登記名義人をYとする本件登記を、登記名義人をYが含まれないAの相続人とする登記と、登記名義人をB(Aの子)の相続人とする登記に更正するというものであるが、これによると、本件登記と更正後の登記とは、その同一性を欠くから、更正登記手続をすることはできないとした上、Y(Bの子)主張の遺産分割協議の成立が認められない限り、本件登記は実体関係と異なる登記であり、これを是正する方法として、更正登記手続によることができないのであるから、XはYに対し、本件土地の共有持分権に基づき、本件登記の抹消登記手続を求めることができるものというべきであり、Yが共有持分権を有することは、これを妨げる事由にならない。

17.本判決のポイントは、共有不動産につき、共有者の1人のため実体関係と異なる単独取得の登記がされている場合に、他の共有者は全部抹消を求めることはできず、その一部抹消(更正)の登記を求めることができるにとどまるとする最高裁昭和38年2月22日は、更正の前後を通じて、登記としての同一性がある事案に係るものであること、更正登記の方法を採ることができない場合には、他の共有者は、共有持分権に基づき、その全部抹消を求めることができることを明らかにした点にある。

18.単有名義を共有名義にする場合
「付記事項 1、1番所有権更正、受付年月日・番号、原因 錯誤 各持分〜」
※所有権の更正の登記は、必ず付記登記でする。

「付記1号、何番抵当権更正、 抵当権の目的 甲某持分
 甲区1番付記1号の登記により平成○年○月○日付記」
※所有権の更正の登記をしたときは、当該不動産を目的とする抵当権の登記を職権により更正する