権能なき社団の代表者個人名義への所有権移転登記手続請求事件の原告適格

1.権利能力のない社団は、構成員全員に総有的に帰属する不動産について、その所有権の登記名義人に対し、当該社団の代表者の個人名義に所有権移転登記手続をすることを求める訴訟の原告適格を有する(最一小判平成22年2月27日判タ1399-84)

2.本件は、権利能力のない社団であるXが、土地建物について、これらがXの所有に属すると主張して、共有持分の登記名義人の内の1人の権利義務を相続により承継したYに対し、「X代表者A」への持分移転登記手続を求めた事案である。

3.原審は、本件土地について、Xの持分移転登記手続請求を認容し、その主文において「Yは、X代表者Aに対し、本件土地について、委任の終了を原因とする持分移転登記手続をせよ。」と命じた。

4.Yが上告受理申立をし、権利能力のない社団であるXには、登記手続請求訴訟における原告適格は無い旨の主張をしたところ、第一小法廷は本件を受理し、Xの原告適格を肯定する判断を示した。

5.権利能力のない社団は、民訴法29条により当事者能力を付与されており、自ら原告として訴訟を提起し、追行することができるとされている。そうすると、社団は、社団名義への登記手続を求めることはできないとしても、自らが原告となって、代表者等個人の名義への所有権移転登記手続を求めることは許容されるようにも思われるが、この点について判断した最高裁判所判例はなく、学説上も見解が分かれていた上、当該判決による登記申請が受理されるのか否かについても、登記実務上、通達等による統一的な取扱いがされているわけでもなかった。

6.消極説
 昭和47年判決(最二小判昭和47年6月2日民集26巻5号)が、「権利能力のない社団には登記請求権は無い」と判示していること、登記実務上も権利能力のない社団が不動産登記の申請人となることは認められていないことなどを根拠に、登記請求権については、およそ権利能力のない社団が原告になってこれを訴求することは認められない、として、代表者個人名義への移転登記手続を求める訴訟は、代表者個人が原告となれば足りるとする。

7.昭和47年判決は、(1)社団構成員全員の共有登記のほか、(2)社団代表者又は社団において登記名義人と定められた構成員(以下、併せて「代表者等」ということがある。)の個人名義の登記を認めている。

8.本判決は、権利能力のない社団が、構成員全員に総有的に帰属する登記請求権を訴訟上行使できることを前提としていると思われるが、その理由付けとしては、訴訟政策的な観点が述べられるにとどまり、理論構成は明らかにされていない。本判決が、社団の受けた判決の効力が構成員全員に及ぶとしていることからすれば、社団を構成員全員のための訴訟担当者とする構成(訴訟担当構成)を採用したもののようにも思われないでもないが、本判決の説示からすれば、社団固有の適格を肯定する構成(固有適格構成)を念頭に置いているようにも思われ、今後の議論が期待される。

9.本判決は、権利能力のない社団が原告となって代表者への移転登記手続を命ずる判決を取得した場合、代表者が登記申請をするに当たり執行文の付与を受ける必要はないとした。この点は論旨では指摘されていなかった問題であったが、学説が執行文必要説と執行文不要説に分かれていたため、あえて判断を示して、登記実務に統一方針を与えようとしたものと思われる。

10.社団の代表者が登記申請をするためには、登記所において、判決主文に登記権利者として記載されていた代表者と、実際の申請人とが同一人であると特定できることが必要であるから、判決においては、当該代表者を特定するための情報(通常は住所)を併記することが必要となろう。

11.原判決の主文においては、「被上告人代表者乙川太郎」への持分移転登記手続が命じられているが、権利能力のない社団の代表者である旨の肩書を付した代表者個人名義への登記をすることは許されないから、上記の主文は、乙側太郎の個人名義に持分移転登記手続をすることを命ずる趣旨のものと解すべきであって、「被上告人代表者」という記載をもって原判決に違法があるということはできない(判旨。いわゆる「善解」)。