吐物の誤嚥と外来の事故

1.(判旨)吐物の誤嚥は、傷害保険普通保険約款において保険金の支払い事由として定められた「外来の事故」に該当する(平成25.4.16第三小法廷判決 判タ1400-106)。

2.本件は、Aが吐物を誤嚥して窒息し、死亡したことについて、死亡保険金の支払いを求める事案である。

3.Aは、治療のために処方されていた複数の薬物を服用し、その後、うたた寝をしていたが、翌日未明、目を覚ました後に嘔吐し、気道反射が著しく低下していたため、吐物を誤嚥し、自力でこれを排出することもできず、気道閉塞により窒息し、間もなく死亡した。

4.原審は、「外来の事故」の意義を、外部からの作用が直接の原因となって生じた事故をいい、薬物、アルコール、ウィルス、細菌等が外部から体内に摂取され、又は侵入し、これによって生じた身体の異変や不調によって生じた事故を含まないとし、Aの窒息は、外部からの作用が直接の原因となって生じたものとはいえない、とした。
「外来の事故」(事故の外来性)とは、一般に、傷害をもたらした事故が身体の内部に原因があるのではなく、外部からの作用に原因があることをいうもので、疾病による身体の事故を除外することを要件としての意味があるとされてきた。

5.(理由)誤嚥は、嚥下した物が食道にではなく気管に入ることをいうのであり、身体の外部からの作用を当然に伴っているのであって、その作用によるものというべきであるから、本件約款にいう外来の事故に該当すると解することが相当である。この理は、誤嚥による気道閉塞を生じさせた物がもともと被誤嚥者の胃の内容物であった吐物であったとしても、同様である。

6.(補足意見)誤嚥は、通常経口摂取したものによって惹起されるところ、本件では誤嚥の対象物が吐瀉物であったことろから、原判決はその外来事故性に疑問を抱いたものと思われる。
 しかし、誤嚥とは、一般的な医学用語辞典によれば、本来口腔から咽頭を通って食道に嚥下されるべき液体又は固体が、嚥下時に気管に入ることをいうものであって、誤嚥自体が外来の事故であり、誤嚥の対象物が口腔に達するに至った経緯の如何、すなわち経口摂取か吐瀉物か、口腔内の原因によるかは問わないものである。