1 右譲受人は、建物の賃料債権を取得したことを差押債権者に対抗
することができないと解するべきである(最判平10.3.24)(金法1519-109、
1556-59)
2 建物の所有者を債務者とする賃料債権の差押えにより右所有者の
建物自体の処分は妨げられないけれども、右差押えの効力は、差押
債権者の債権及び執行費用の額を限度として、建物所有者が将来収受
すべき賃料に及んでいるから(民事執行法151条)、右建物を譲渡
する行為は、賃料債権の帰属の変更を伴う限りにおいて、将来に
おける賃料債権の処分を禁止する差押えの効力に抵触するというべき
だからである。
3 反対説によれば、賃料債権の差押命令の効力は、建物の所有権が
債務者に帰属する限りで賃料債権に及ぶにすぎず、建物が他に譲渡
された場合には、譲渡人を債務者とする賃料債権の差押命令はその
対象を欠くことになってその効力を失い、譲受人は賃料債権の取得を
差押債権者に対抗しうる、と説かれる。
4 一方で、賃料債権の差押命令を、賃料前払や賃料債権の譲渡と
同じく、譲渡人との関係での賃料債権の事前処分の一態様と据えた
うえで、かかる賃料債権の事前処分を建物の譲受人にも対抗しうる
のか、賃料債権に対する差押命令の効力がその債権発生の基礎で
ある法律関係の処分にまで及ぶかが問題。
5 本判例は賃料債権の差押え後に建物が任意譲渡された場合に
関するものであるが、建物が競売に付された場合についても、
その買受人の法的地位について本件と異なる解釈をする合理的
理由はない。
6 近時の判例(最一小判平10.3.26、金法1518号35頁)によれば、
賃料債権に対する一般債権者の差押えと抵当権者の物上代位に
基づく差押えが競合した場合につき、一般債権者の申立てによる
差押命令の第三債務者(賃借人)への送達と抵当権設定登記との
先後によって両者の優劣が定まるとされる。これを前提に推論
すれば、抵当権設定登記以後になされた一般債権者による賃料
債権の差押命令の処分禁止の効力は、抵当権者が賃料債権に物上
代位に基づく差押えを行った場合には、競売に付された建物の
買受人には及ばないと解するのが相当であろう。