転付命令が発せられた場合の供託

1.民事執行法は、転付命令に対して執行抗告を認め(民執159条4項)、転付命令は確定しなければ、効力を生じないこととしている(民執159条5項)。

2.転付命令の確定前に、第三債務者は民執法156条1項によって、差押えの対象となった金銭債権の全額又は差押え金額に相当する金銭を供託することができる。
  この供託によって、第三債務者の執行債務者に対して有する債務は消滅するから、これによって転付命令は効力を生じないことになる。

3.しかし、上記の供託によって、配当遮断効の効果が生じるので(民執165条1号)、添付債権者は結局供託金から独占的満足を受けることができる。
  したがって、実質上は、転付命令が確定したのと同様の効果を生じたことになる。

4.【民執法165条 配当を受けるべき債権者の範囲】
  配当を受けるべき債権者は、次に揚げる時までに差押え、仮差押えの執行又は配当要求をした債権者とする。
  1号 第三債務者が第156条1項又は第2項の規定による供託をした時

5.民執法165条の趣旨
(1)本条は、配当要求の終期を明らかにすることで執行手続きを簡明にしたものである。
 (2)配当要求の終期をどこに定めるかは、専ら政策的な問題であり、配当手続の迅速化という要請と、正当な配当要求債権者の権利保護の要請とを較量することになる。
 (3)民執法でも、不動産執行に比べて、配当要求の終期を換価手続の早い段階に置き、不動産執行の場合のように終期の延期という手続もない。
 (4)不動産については、債権者の最後の重要な財産というとらえ方で配当要求債権者の保護をも考えているのに対し、債権執行では配当手続の迅速化という要請を重く見ているのである。

6.第三債務者が、民執法156条1項によって任意的に供託したとき又は同条2項によって義務的に供託したときは、いずれの場合も配当等の原資となるべきものは確定され、執行裁判所の管理下に入ったのであるから、それ以降の配当要求はできないこととした。

7.【配当等の実施(民執法166条1項1号)】
  執行裁判所は、次に揚げる場合には、配当等を実施しなければならない。
  1号 第156条第1項若しくは第2項又は第157条第5項の規定による供託がされた場合

8.民執法166条の趣旨
 (1)債権執行の場合は、換価手続に執行機関が関与するのはむしろ例外的である。
 (2)債権差押えによって、差押債権者に取立権が付与され、債権者が第三債務者から任意に支払を受ければ弁済とみなされるし(民執155条2項)、債権者が取立訴訟(民執157)によって支払を受けたときも同様である。
 (3)また、転付命令が効力を生じて債権者に転付されたときも弁済とみなされる(民執160)。
 (4)いずれも配当手続なしに執行が終了し、債権者が満足を得ることとなり、これがむしろ債権執行の原則である。
 (5)これに対し、例外的に配当等が実施される場合につき定めたのが本条である。