滞納処分による差押え後に設定された賃借権により競売開始前から使用又は収益する者の民法395条1項1号該当性(最三小決平成30年4月17日判タ1449号91頁)

1 抵当権者に対抗することができない賃借権が設定された建物が担保不動産競売により売却された場合において、その競売手続の開始前から当該賃借権により建物の使用又は収益をする者は、当該賃借権が滞納処分による差押えがされた後に設定されたときであっても、民法395条1項1号に掲げる「競売手続の開始前から使用又は収益をする者」に当たる。
2 滞納処分による差押えがされた後担保不動産競売の開始決定による差押えがされるまでの間に賃借権が設定された不動産が担保不動産競売により売却された場合において、平成15年の民法改正により設けられた明渡猶予制度の適用の余地があるか否かについて判断を示した最高裁判例はなく、明渡猶予制度の適用を否定する見解(以下「否定説」という。)とその適用をする余地があるとする見解(以下「肯定説」という。)が対立している。
3 否定説は、滞納処分による差押えが民事執行手続においても処分制限効を有するという立場を前提としていることからすると、その処分制限効に抵触して設定された賃借権により使用又は収益をする者に明渡猶予制度を適用すべきではないとする。そして、大阪地方裁判所の民事執行センターにおいては、否定説に立った運用がされているようである。
4 肯定説は、民法395条1項の明渡猶予は、民事執行法に基づく担保不動産競売における売却により抵当権に対抗することができない賃借権が消滅することを前提とするものと解されるから、滞納処分による差押えの処分制限効が滞調法に基づく続行決定後の民事執行手続において認められるか否かの議論は、この論点の帰趨に直結するものではないし、民法395条は、滞納処分に基づく公売手続について特段の規定を置いていないのであるから、民事執行法に基づく担保不動産競売の開始前から使用又は収益をする者であれば、その使用又は収益に係る賃借権が滞納処分による差押えがされた後に設定されたものであっても、同条1項1号に当たるというのが、その文理に沿った解釈であるとする。そして、東京地方裁判所の民事執行センターにおいては、肯定説に立った運用がされているようである。
5 本決定は、東京地方裁判所の民事執行センターと大阪地方裁判所の民事執行センターとで異なる解釈を採っていた論点につき、最高裁判所がその見解を明らかにしたものである。