ノンコミットメントルール(判タ1447号5頁)

1(1)ノンコミットメントルールとは、a弁護士が、争点整理において、後日撤回する可能性を留保した暫定的発言をすることを認めること、b裁判所は、暫定的発言を主張として扱わないこと、c相手方代理人は、暫定的発言を次回の準備書面で引用したり、その発言を自白として扱うべきだという主張をしたりしないということである。
(2)その趣旨は、争点整理手続を充実させ、質の高い裁判をするためには、口頭議論の活性化が必要だが、その口頭議論を活性化させるために弁護士が委縮することなく自由に議論できるようにする点にある。
2 裁判所では、ノンコミットメントルールが徐々に浸透しているが、まだ十分とは言えない。
3(1)理論的な問題点として、a裁判上の自白の成否、b口頭議論における発言を準備書面等で引用された場合の取扱い、c弁論の全趣旨としての斟酌が挙げられる。
(2)(自白の成否につき)争点整理手続中は、自白成立の要件を厳格に解する、又は、自白の撤回を緩やかに認めるなどして、自白の拘束力を抑制使用とする考え方が、近時は通説的なものとなっている。
(3)(自白の成否につき)少なくとも双方に弁護士が代理人としてついている場合には、準備書面に記載されて陳述された場合や、調書に書面化された場合に限って、自白と認めるという扱いを原則と考えるべきである。
(4)(弁論の全趣旨につき)一つ一つの発言を捉えて弁論の全趣旨として考慮することは、自由心証主義の内在的制約である経験則に反するものということになるであろう。
4 慎重な代理人や若手弁護士の中には、裁判所が弁論準備手続において口頭で水を向けても、持ち帰って準備書面で回答すると述べるなど、なかなか口頭議論に乗ってこない場合がある。
 現時点では、ノンコミットメントルール自体が弁護士全体に浸透しているとは言えず、その認識・温度感には相当の差があることを感じる。
5 争点整理には段階があり、事件の進行に伴い内容や深度が変わるが、a直ちに自白は成立しない、b相手方が準備書面に引用しない、という意味では、原則として終盤までノンコミットメントルールが適用される。
6 裁判所が、調書に記載するときは確認をしてからにする旨や、代理人の口頭の発言を相手方が準備書面で引用しない旨等を説明することを通じて、ノンコミットメントルールの定着を図ることが考えられる。
7(1)ノンコミットメントルールに反して当事者が相手方の期日での発言を準備書面に引用した場合、三つほどの対応が考えられる。一つ目は、当該部分を陳述させないというもの、二つ目は、その準備書面を陳述させず、当該部分を削除した準備書面を改めて提出させるというもの、三つ目は、期日の調書に当該発言内容は確定的に発言したわけではない旨を記載するというものである。
(2)提出した準備書面を陳述させない根拠としては、訴訟契約と解することや、信義則に反する不適法な訴訟行為(主張ないし証拠申出の却下理由)とすることが考えられる。
(3)弁論準備手続期日での発言記録として訴訟代理人弁護士が作成した文書につき、証拠としての適格性を欠くとした裁判例東京地裁平成12・11・29判タ1086号162頁)も参考になる。