形式的競売と無剰余取消 (判タ 1379-104)

1 民法258条2項所定の競売を命ずる判決に基づく不動産競売については,民事執行法59条及び63条が準用される。(平24.2.7第三小法廷決定)


2 執行裁判所は,買受可能価額が,手続費用及び差押債権者の債権に優先する債権の見込額の合計に満たない旨の民事執行法63条1項2号に基づく通知をし,Xらが同条2項所定の対応をしなかったことから,本件の競売手続を取り消す旨の原々決定をした。
Xらが,共有物分割のための不動産競売に,民事執行法63条は準用されないと解すべきであるとして,許可抗告を申し立てたが,本決定は,後記4のとおり判示して,原審の判断を是認し,Xらの抗告を棄却した。


3 形式的競売の手続につき,民事執行法195条は,「担保権の実行としての競売の例による」と規定するのみであり,具体的にどのような手続によって競売を実施するかは,当該競売手続の趣旨・目的・性質等に応じた個別的な解釈に委ねられている。



(1) そのため,共有物分割のための不動産競売の手続において,無剰余取消しに関する民事執行法63条が準用されるかが問題となる。
(2) 前提として,共有物分割のための不動産競売において,目的不動産上に存する抵当権等の負担は売却により消滅すると定めた民事執行法59条が準用されるかが問題となる。


5 現在の実務では,形式的競売全般に民事執行法59条(消除主義)を準用し,権利関係は消滅するとする消徐説でほぼ異論なく運用されている。


6 学説上は,形式的競売を,当該財産から弁済を受け得る各債権者に対して一括して弁済することを目的とする清算型とそれ以外の換価型とに分類し,前者については消除説を採用する一方,後者については担保権を消滅させる必然性がないのに担保権のみならずこれに劣後する用益権を消滅させるのは行き過ぎであるとして引受説を採るという二分説が有力である。


7 建物の区分所有等に関する法律59条所定の競売を命ずる判決に基づく競売
(1) 競売請求を認容した確定判決が存在する以上,この判決に基づく競売においては,売却を実施して,当該区分所有者からの区分所有権を剥奪する目的を実施する必要がある。
(2) 区分所有権は,競売請求を受ける可能性を内在した権利というべきであり,区分所有権を目的とする担保権は,このような内在的制約を受けた権利を目的とするにすぎないなどとして,手続費用を弁済することすらできないと認められる場合でない限り民事執行法63条は準用されないとした東京高決平16.5.20判タ1210号170頁が出た。


8 執行実務は,区分所有法59条に基づく競売については,消除説を前提としつつも民事執行法63条を準用しない取扱をしている。


9 本決定は,その理由とするところは明らかではないが,引受説の問題点を踏まえ,条文解釈上無理が少なく,また,買受人の地位を安定させることができる消除説を採用し,これを前提とする以上,担保権者の換価時期の選択の利益を保護する必要があることから,民事執行法63条を準用することとしたものと推測される。