相続預貯金払戻 (判タ 1355-55)

1) 証書・届出印の提出の要否
1. 問題点
預金約款には、払戻請求には証書及び届出印を要するとの規定があるのが通常であり、金融機関が同規定を根拠に払戻請求を拒むことがある。
2. 裁判例
判例は古くから、証書は単なる証拠証券にすぎないこと等を理由として、証書・届出印がなくても払戻請求を求めている。


2) 相続開始後に引き落とされた預金
1. 裁判例
預金者と金融機関との間の税金支払に関する自動振替の委任契約に基づきその死亡後に行われた所得税の引落しについて、「委任者と銀行との間の自動振替 の委任契約に基づく裁量の余地のない実行行為であるから、委任者の死亡後は 引落としをしない旨の特約があるなどの特別の事情のない限り、委任者の死亡 後にも事務管理として行い得る行為である」として有効と認めた。
同判決は、事務管理民法697条)を根拠としたものと解される。

2. 口座振替については、委任に関する規定が適用される。最平4.9.22は、自己の死後の事務を含めた法律行為等の委任契約は、当然に、委任者の死亡によっても同契約を終了させない旨の合意を包含し、民法653条はかかる合意の効力を否定するものではないとしている。 

3. 預金者が生前負担した債務については、預金残高がある限り死亡後も口座振替を継続しても構わないとするのが当事者の合意的意思に合致するから、預金残高がある限り死亡によっては終了しないとの合意があるものと認めるべきである。

4. 金融機関が民法654条の応急善処義務を負う場合がある。その期間について、2〜3か月とする考え方がある。

5. 委任が終了しても、金融機関に預金者の死亡が通知され、又は金融機関が預金者の死亡を知るまでは、委任の終了を金融機関に対抗できず、口座振替は有効である。(民法655条)


3) 払戻しの遅滞・拒絶による金融機関の責任
1. 普通預金
いつでも払戻しを請求でき(民法666条2項)、その翌日に遅滞に陥るが(民法 412条3項)、払戻請求者において自らが正当な権利者であることを明らかにする必要がある