共益債権の代位弁済をした場合、給付の訴えは却下(金法1881-57)

1 民法501条柱書の「自己の権利に基づいて求償することができる範囲内」
 とは、求償権の存在や額を行使の上限とするにとどまらず、求償権の行使
 に実体法上または手続法上の制約が存する場合には、原債権がその制約に
 服することを意味している。


2 本件求償権には再生債権として、民事再生手続開始後は、原則として
 再生計画の定めるところによらなければ弁済等が許されないという行使
 についての手続法上の制約が存するのであるから、本件請求権を民事再生
 手続外で行使し、弁済を求めることはできず、本件請求権について給付の
 訴えを提起することができない。(大阪地判21.9.4)


3 民法501条の「求償権の範囲」の解釈、ないし原債権と求償権の関係が
 問題となった最高裁判例
  最三小判昭59.5.29「昭和59年判決」
  最一小判昭61.2.20「昭和61年判決」


4 論点
  本件判決のように、「求償権の範囲」に、求償権の存在や額に加えて、
 求償権の行使に実体法上または手続法上の制約が存する場合には、原債権
 がその制約に服することをも意味していると解してよいか。


5 本件のように私債権を代位取得した場合と租税債権を代位取得した場合
 とを並列的に考えることができるか。


6 弁済による代位の制度は、代位弁済者の債務者に対する求償権を確保
 することを目的として、弁済によって消滅するはずの原債権及びその担保
 権を代位弁済者に移転させ、代位弁済者がその求償権を有する限度で移転
 した原債権及びその担保権を行使することを認めたものである。


7 原債権と求償権
  別異の債権ではあるが、代位弁済者に移転した原債権及びその担保権は、
 求償権を確保することを目的として存在する附従的な性質を有し、求償権
 が消滅したときはこれによって当然に消滅し、その行使は求償権の存する
 限度によって制約されるなど、求償権の存在、その債権額と離れ、これと
 独立してその行使が認められるものではない。


8 代位弁済者による原債権の行使は、求償権とは別異の債権行使ではある
 ものの、これを行使する場合には、必然的に求償権の存在をも主張立証
 することになり、その行使の可否及び範囲については求償権を行使し得る
 範囲を超えては認められないのである。


9 原債権たる本件請求権は共益債権であるが、本件求償権には、再生債権
 として、民事再生手続開始後は、原則として再生計画の定めるところに
 よらなければ弁済等が許されないという行使についての手続法上の制約が
 存するのであるから、原債権を求償権たる本件請求権の行使については、
 再生債権と同様の制約に服することになる。


10 立替払によって同機構が取得する事業主に対する求償権は、倒産手続
 開始後の事務管理又は不当利得に基づく請求権として破産手続上の財団
 債権又は民事再生手続上の共益債権となるというべきであるから、これを
 確保するために原債権たる賃金債権を行使する場合も、求償権の性質によ
 る行使の制約を受けることはないことになる。