使用借権の時効取得(判タ1393-170)(東京高判25.9.27)

1 親族間においては、土地の使用貸借をめぐる紛争が多く、その中には、
土地の使用借権の時効取得が争点をなった事件も相当数ある。


2 最二小判昭48.4.13は、土地についても使用借権の時効取得が成立し
得ること自体は、認めている。


3 上記最高裁判決によれば、土地に対する使用借権の時効取得が認められ
るためには、土地の継続的な使用収益という外形的事実が存在し、かつ、
その使用収益が土地の借主としての権利行使の意思に基づくものであること
が客観的に表現されていることを要するとされている。
この要件を満たす使用貸借の事例が稀なことは、上記のとおりである。


4 本件では、従来、兄弟間に有効な使用貸借関係が存在しており、借主で
ある弟が死亡したことにより使用貸借関係が法的には終了した(民法599条)
が、その相続人が法律関係を理解しないまま、被相続人の占有を承継後、
被相続人と同じ態様で占有を継続し、その後10年間占有を継続したという
事案である。


5 使用貸借関係が債務者の死亡により消滅することは、民法599条に規定
するところであるが、この規定は任意規定であり、債務者が死亡しても
消滅しない旨の特約がある場合には、これに従うことになる。


6 土地使用借権者の死亡により土地使用に関する占有権原が否定されるの
では紛争解決として不適当な事情がある場合には、土地所有者による明渡請
求を権利濫用として排斥するのが実務における一般的対処といえる(東京高
判昭61.5.28判時1194号79項、大阪高判平20.8.29、判タ1280-220頁)。


7 (判旨)
死亡時に同人による従前の使用収益の形態を変えることなく本件土地の
使用収益を開始し、以後本件土地の使用収益を継続してきたものである。
したがって、控訴人については、同日以降、使用借権者と同等の使用収益が
外形的事実として存在し、かつ、その使用収益は本件土地の借主としての権
利行使の意思に基づくものであると認められ、控訴人は、この状況の中で、
本件建物について敷地の使用借権があるものと信じ、そう信じることに特段
の過失がなく占有を開始し、本件建物の敷地である本件土地を使用借人とし
て10年間占有を継続してきたものであるから、これによって、本件土地の
使用借権を時効取得したものと認めるのが相当である。