破産法162条1項柱書の「既存の債務についてされた担保の供与」の該当性につき、対抗要件具備の経緯が問題とされた事例(判タ1471号130頁 和歌山地方裁判所民事部 平成28年(ワ)第584号)

1 本件融資から本件各担保契約についての対抗要件の具備までに時間を要した(本件融資6/30 担保契約7/17 対抗要件具備7/28又は8/13)ことを理由に、本件各担保契約が「既存の債務についてされた担保の供与」該当するかが争われた

2 ⑴ 破産法162条1項柱書は、いわゆる同時交換的行為(新たな融資とともになされる担保の供与等)を否認の対象から除外されているところ、同時交換性は、担保契約のみならず対抗要件の具備行為についても要求されるものと解されている。

 但し、対抗要件の具備には、一般に一定の時間を必要とすることから、融資契約の成立と対抗要件の具備とが完全に同時に行われるまでの必要はなく、両者が時間的に接着しており、社会通念上、当該担保の供与等が既存の債務についてされたものとは認められない場合には、なお同時交換的行為としての保護を受けるべきものと解されるとの指摘もある。

⑵ 本判決は、Yが一般債権者としての信用リスクを負うことを一時的にでも受任したものと評価されるか否かを問題とした。これは、同時交換的行為が否認の対象から除外されるべき根拠の一つとして、同時交換的取引の場合には債権者は一度も無担保債権者として債務者の信用リスクを負っていないことが挙げられていることと軌を一にする。

 なお、本判決は、被担保債権に新たな債務と既存の債務も含まれていると認定したため、否認の対象及び効果をどのように考えるかも検討している。新たな債務に関する担保設定と既存の債務に対する担保設定が一体として区分できない場合には全て否認の対象になるが、区分できる場合には既存の債務に掛かる部分のみが否認の対象になるとの見解が示されており、本判決もこれに沿うものである。

被用者が使用者又は第三者に損害を与えた場合における使用者と被用者の間の賠償・求償関係(判タ1468号5頁)

第1 使用者による請求について

 1 訴訟物

 2 賠償・求償の制限1(特約によらない制限)

 (4)裁判例の傾向の分析

  ア 制限の範囲各論以外の点

  イ 制限の範囲各論について

  (ア)交通事故類型について

  (イ)図利加害類型について

    報償責任や危険責任の観点からは請求制限の正当化が困難であり、学説上も制限に肯定的なものはみられない。

  (ウ)権限逸脱類型について

    図利加害類型と比較すると報償責任や危険責任の観点から請求制限を説明することは可能である一方で、その他の過失類型と比較すると加害行為の態様が悪い。

    交通事故類型やその他の過失類型と比較すると、これらの類型よりも請求が制限されない例が多く、制限の割合も低い傾向にある。

 3 賠償・求償の制限2(特約による制限等)

第2 被用者による請求について

 1 逆求償について

 2 返還等について

 

リフォーム工事が建築関係法令に違反した場合の契約関係の整理(判タ1467号18頁)

1 本報告では、注文者が建築関係法令違反のリフォーム工事(特に断らない限り、設計施工一体型を念頭にする。)を問題とするときの典型的な主張及びその問題点を整理して審理の見通しを立てられるようにすることを目的とする。

2 報告者が所属する大阪地裁第10民事部は、訴訟事件は建築関係訴訟事件のみを取り扱う専門部であるところ、報告者担当の訴訟事件のうち、新築工事ではない建築工事が問題となる割合は、4割を超えている。

 

死後認知(民法910条)

1 相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において他の共同相続人がすでに当該遺産の分割をしていたときの民法910条に基づき支払われるべき価額の算定の基礎となる遺産の価額(判タ1465号49頁 最判R1.8.27)

2 判決要旨 相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割をしようとする場合において、他の共同相続人が既に当該遺産の分割をしていたときは、民法910条に基づき支払われるべき価額の算定の基礎となる遺産の価額は、当該分割の対象とされた積極財産の価額である。

3 消極財産である相続債務の負担の在り方の問題とも関連しており、相続債務の問題を民法910条の支払価額の算定の際に考慮すべきであるとして、これを控除した遺産の価額を基礎として支払い価額を算定すべきであるとする控除説と、相続債務の負担は同条の支払請求とは別個に考慮すべき問題であるとして、これを控除すべきでないとする非控除説の対立が見られる。

4 判例は、可分債務について、法律上当然分割され、各共同相続人がその相続分に応じてこれを承継するものと解すべきであるとしており、実務においても、相続債務は遺産の分割の対象から除外されている。

5 非控除説を採用する場合には、認知によって相続債務の負担に変更を生ずることになるものの、認知の時点において既に相続債務の返済を受けていた債権者の利益は、認知の遡及効の制限(同法784条ただし書)や債権の準占有者に対する弁済(同法478条)等の規定によって保護されることになると考えられるところ、当該共同相続人が同法910条の支払請求の相手方であれば、相殺によって処理することが考えられ、本件でも、原審において、被告からこのような相殺の抗弁が予備的に主張され、その一部が認められている。

金属スクラップ等の継続的な売買契約において目的物の所有権が売買代金の完済まで売り主に留保される旨が定められた場合に、買主が保管する金属スクラップ等を含む在庫製品等につき集合動産譲渡担保権の設定を受けた者が、売買代金が完済されていない金属スクラップ等につき売主に上記譲渡担保権を主張することができないとされた事例(最判平成30年12月7日第二小法廷判決民集72巻6号1044頁)

1 ➀目的物の所有権は代金完済まで売主に留保され、代金完済の時点で買主に目的物の所有権が移転するという構成(「留保構成」)

 ②売買契約によって売主から買主に留保所有権は移転され、買主から売主に留保所有権が設定されるという構成(「移転・設定構成」)

2 最高裁平成2264日第二小法廷判決(「平成22最判」)

 信販会社は留保した所有権を別除権として行使することはできないとしたもの

3 平成22年も最判平成29127日第一小法廷判決(「平成29最判」も、信販会社がする自動車の留保所有権について、留保構成を採るのか、移転・設定構成を採るのかは判文から明らかではない。

4 留保構成を採った場合には、代金完済までは売主から買主に目的物の所有権は移転しないことから、代金完済未了の目的物には譲渡担保権の効力は及ばず、売主は留保所有権を譲渡担保権者に主張できることになる。

 移転・設定構成を採った場合には、目的物について、買主を起点として、売主への留保所有権の設定という物権変動と譲渡担保権者への集合動産譲渡担保権の設定という2つの物権変動があると捉えることになる。したがって、集合動産譲渡担保権につき特例法上の登記がされた後に、売買契約の目的物が引き渡された場合には、譲渡担保権者が常に優先することになると考えられる。

5 本件は事例判決。売買契約において所有権留保を定める条項は、所有権留保の目的物の範囲は完済を確保する売買代金債権の範囲について様々なものが想定されること考慮。

 本判決では、売主と買主との間の売買代金債権がすべて完済されるまで売買契約に基づいて売主が買主に引き渡したすべての目的物の所有権が留保されるとの定め(いわゆる根所有権留保の合意)がされた場合についてまで、留保構成をそのまま採るとは言えないように思われる。

 あくまで、転売の承諾は売買代金の資金を確保するためのものであり、これをもって移転・設定構成を採ったと解することはできない旨を判事したものと思われる。

6 平成22最判や平成29最判をはじめとする過去の判例を見る限り、留保構成か移転・設定構成という所有権留保の法的構成から結論を導き出しているのではなく、問題となる法的局面において考慮すべき種々の事項を踏まえつつ、局面ごとに判断しているようにもみえるところであって、それらの問題について本判決の判事内容から直ちに何らかの帰結が予想されることにはならないように思われる。

 

区分所有建物の管理組合は、区分所有建物の共用部分について、民法717条の占有者に当たらない(東京高判平成29年3月15日・判タ1453号115頁 原審:前橋地裁高崎支部平成28年1月19日)

 

1 区分所有建物の共有部分については、管理組合は民法717条の占有者には当たらず、区分所有者の全員が民法717条の占有者には当たる、とするのが立法担当者による解説であり、本判決も同じ考え方によったものと思われる。

2 本判決は、「敷地及び共用部分等の管理については、管理組合がその責任と負担においてこれを行うものとする」とする管理組合規約の規定は団体(管理組合)の目的・権能を定めた規定であって、区分所有者と管理組合の契約(権利義務関係を定めた規定)ではない、と判断して、債務不履行の主張を排斥した。

 第1審被告(管理費滞納者)が主張する管理組合規約の規定は、合同行為(団体設立行為)にすぎないと判断したものであろう。

建築訴訟の審理モデル~追加変更工事編~(判タ1453号5頁)

 

1 審理モデル(追加変更工事編、瑕疵編、出来高編)は、今後3回に渡って本誌に掲載される予定である。

2 追加工事の要件事実

①当該工事が追加変更工事であること(追加性)

②施工合意

③確定代金額の合意

 ③´a有償合意(有償性)

   b相当代金額(相当性)

④⑤完成・引渡

(1) 追加変更工事契約の法的性質については、本契約と別個の契約と解される場合と、本契約の一部変更であり本契約と同一の契約に基づくものと解される場合に大別できるが、実務上は後者と解される場合が多い。

(2) 追加変更工事を施工することの合意はあるが、代金額については特段合意していない場合は、③´の要件を主張立証することになる。

3 商法512条に基づく請求

(1)施工合意や有償性が認められない場合に備え、予備的に商法512条に基づく請求がされることがあるが、かかる請求が認められる事例は極めて限られると考えられる。

(2)有償合意が認められない場合には、「無償の合意を認定することができる場合が多く、・・・商法512条に基づく請求をすることによって、有償性に関する立証の不奏効が救済されるような事例はほとんどないように思われる。」

4 調停委員の意見の活用方法

 調停が不調となる場合には、調停委員にて意見書を作成し、当事者に交付した上で、訴訟手続の調書に添付したり、当事者に証拠として提出してもらうという運用を行っている。

5 参考書式

別紙1 審理モデル図

別紙2 訴状

別紙3 「建築関係図等チェックリスト」

別紙4-1 追加変更工事一覧表(書式)

別紙4-2 追加変更工事一覧表(記載例)

別紙5 「追加変更工事一覧表作成に当たってのお願い」