相続放棄の申述の受理を争う場合

1 債権者の提訴により被相続人に多額の債務があることが判明したとして
 なされた相続放棄の申述について,熟慮期間を繰り下げるべき特段の事情
 がないとされた事例(判タ1309-251、大高判H21.1.23)


2 Yが相続放棄をしたと抗弁し、その相続放棄の熟慮期間の起算点が争点
 の一つとなった事案。


3 被告は本件については、YがAのXに対する多額の本件債務のあることを
 知ることができなかったことに相当な理由がある場合であるから、熟慮期間
 は、本件訴状が送達された日から起算されるべきであると主張した。


4 本件最判の射程範囲を巡って、熟慮期間の繰下げは、「相続財産が全く
 存在しない場合」に限られるという限定説と、「被相続人に相続財産が
 あったとしても、予期しない多額の消極財産が判明した場合」にも認めら
 れるという非限定説が対立しており、下級審裁判例にも、相続放棄の申述
 の受理に関して、限定説に立つものや非限定説に立つものがあった。
 (昭59最判解説(民)206頁は、本件最判は限定説に立つ趣旨であろうと
 している。)


5 非限定説の立つ主な論拠は、相続人が相続財産の存在を全く知らない
 場合と一部を知っていた場合とを区別する合理的理由がないということや
 被相続人に対する債務の履行を相続人から得るという債権者の期待を保護
 する必要性に乏しいという点にあり、Yもこの非限定説に立つものである。


6 最三小決平13.10.30家月54巻4号70頁は、限定説に立って相続放棄の申述
 を不適法とした原審の許可抗告について抗告棄却の決定をしたことから、
 本件最判は、限定説に立つものと解された。


7 非限定説には、限定承認や法定単純承認の規定との関係、積極財産を処分
 してしまった場合や相続債務を支払った場合の法律関係等多くの問題点が
 ある。


8 (判旨)
  このような事情に照らせば、控訴人について、熟慮期間を本件訴状が控訴
 人に送達された日から起算すべき特段の事情があったということもできない。


9 控訴人がした相続放棄の申述は相続開始から3カ月を経過した後にされた
 もので、その受理は効力を有しないものというべきである。