遺留分

1 判決要旨(判タ1317-124)
  遺留分権利者から遺留分減殺請求を受けた受遺者が、民法1041条所定の
 価額を弁償する旨の意思表示をしたが、遺留分権利者から目的物の現物返還
 請求も価額弁償請求もされていない場合において、弁償すべき額の確定を
 求める訴えを提起したときは、受遺者においておよそ価額を弁償する能力
 を有しないなどの特段の事情がない限り、上記訴えには確認の利益がある。
 (最判H21.11.27)


2 遺留分権利者は、受遺者等に対し、減殺請求に係る現物返還請求権を行使
 することも、それに代わる価額弁償請求権を行使することもでき、反面、
 受遺者等は、遺留分権利者に対し、目的物の現物返還をすることも、それに
 代わる価額弁償をすることもできる立場にある(最三小判S54.7.10)


3 原審は、Yらが価額弁償請求権を行使する旨の意思表示をしていない現
 段階では、価額弁償請求権が確定的に発生しているとはいえず、価額弁償請
 求権の存否又はその金額の確定を求める訴えは、現在の権利関係の確認を
 求める訴えということはできないと判断した。


4 価額弁償すべき額の確定を求める訴えは、遺留分権利者が価額弁償請求権
 を「確定的に取得した」とはいえず、実際に価額弁償がされるまでは目的物
 の価値の変動に伴い弁償すべき額が変動すると考える余地があるため(最二
 小判S51.8.30)
  ① 価額弁償すべき額という本件の確認請求の対象が確認の対象としての
    適格を有するか
  ② 解決すべき紛争が確認判決によって即時に解決しなければならない
    ほど切迫し、成熟したものかが問題となる。 


5 最三小判H9.2.25は、遺留分減殺請求をした遺留分権利者が受遺者に対し
 て減殺請求にかかる目的物の現物返還を求め、これに対する抗弁として
 受遺者が価額弁償の意思を表示して弁償すべき価額の確定を求めた事案に
 ついて、「遺留分減殺請求を受けた受遺者が、単に価額弁償の意思表示を
 したにとどまらず、進んで、裁判所に対し、遺留分権利者に対して弁償を
 すべき額が判決によって確定されたときはこれを速やかに支払う意思があ
 る旨を表明して、弁償すべき額の確定を求める旨を申し立てた」という
 限定を付した上で、受遺者からの価額弁償の申出を適法な抗弁と据えて
 価額弁償がされないことを条件とした認容判決をすべき旨の判断をした。
  受遺者に現物返還と価額弁償との選択権を与えた民法1041条を実効力あ
 るものとするためには、弁償すべき価額を裁判所が決定することを求める
 ことを可能にする必要があることが重視された結果である。


6 受遺者が遺留分権利者からいまだ目的物の現物返還請求も受けていない
 という点で上記の平成9年判決の事案とは異なる。


7 請求の趣旨としては、
  ① 受遺者において遺留分の侵害が全くないと主張する場合には、被告
   (遺留分権利者)が遺留分減殺請求により取得したと主張している
    特定の不動産等について、被告がその持分権等を有しないことの
    確認を求め、
  ② 受遺者において遺留分の侵害が一定程度あることを認めている場合
    には、「被告が被相続人の相続について原告(受遺者)に対して
    した遺留分減殺請求に係る目的物につき、原告が民法1041条の規定
    によりその返還義務を免れるために支払うべき額が××円である
    ことの確認」を求めることが考えられる。


8(判旨理由)
  遺留分減殺請求を受けた受遺者等が民法1041条所定の価額を弁償し、
 又はその履行の提供をして目的物の返還義務を免れたいと考えたとしても、
 弁償すべき額につき関係当事者間に争いがあるときには、遺留分算定の
 基礎となる遺産の範囲、遺留分権利者に帰属した持分割合及びその価額を
 確定するためには、裁判等の手続において厳密な検討を加えなくてはなら
 ないのが通常であり、弁償すべき額についての裁判所の判断なくしては、
 受遺者等が自ら上記価額を弁償し、又はその履行の提供をして遺留分減殺
 に基づく目的物の返還義務を免れることが事実上不可能となりかねない
 ことは容易に想定されるところである。弁償すべき額が裁判所の判断に
 より確定されることは、上記のような受遺者等の法律上の地位に現に生じ
 ている不安定な状況を除去するために有効、適切であり、受遺者等に
 おいて遺留分減殺に係る目的物を返還することと選択的に価額弁償する
 ことを認めた民法1041条の規定の趣旨にも沿うものである。