若年非正規雇用者の逸失利益(未来118頁)
1 平成11年ころから行ってきた若年労働者の基礎収入の認定の在り方に
ついて、非正規雇用の就業形態により稼働していた場合を中心として、
検討すべき点はないかという問題意識が生じている。
2 いわゆる平成11年三庁共同提言は、基礎収入の認定について、比較的
若年の被害者で生涯を通じて全年齢平均程度の収入を得られる蓋然性が
認められる場合については、基礎収入を全年齢平均賃金又は学歴別平均
賃金によることとするとしている。
3 判断要素として以下の諸点
(1) 事故前の実収入額が全年齢平均よりも低額であること。
(2) 比較的若年であることを原則とし、おおむね30歳未満であること。
(3) 現在の職業、事故前の職歴と稼働状況、実収入額と年齢別平均賃金
又は学歴かつ年齢別平均賃金との乖離の程度及びその乖離の原因な
どを総合的に考慮して、将来的に生涯を通じて全年齢平均賃金又は
学歴別平均賃金程度の収入を得られる蓋然性が認められること。
4 学生等について全年齢平均賃金を基礎収入として採用していることと
の均衡も問題となる。家事従業者との均衡も問題となるといえる。
5 最近は、支払側が、被害者の生活歴、就労歴からして平均賃金まで稼
げる見込みがないという方向の主張、立証活動を丁寧にするという事案
が増えており、ストレートに全年齢平均賃金を使うというわけにはいか
ない場面が出てきているといった指摘がされている。
6 若年非正規雇用者で実収入額が年齢別平均賃金に比べて相当低額な者
については、収入増を期待できる専門技術、技能、資格の取得、職歴、
収入、正規雇用による就労の意思、機械の有無等を考慮した上で、生涯
を通じて全年齢平均賃金程度の収入を得られる蓋然性の有無を判断し、
蓋然性が認められない者については、全年齢平均賃金の相当割合による
方法を採ることが相当と考える見解がある。
7 全年齢平均賃金よりも実収入が低い若年者について、生涯を通じて全
年齢平均賃金程度の収入を得る蓋然性があると認める場合というのは、
考え方としては、年齢を重ねるにつれて、年齢に応じて概ね上昇してい
く年齢別平均賃金相当額の収入を得ていき、その総額が生涯を通じて得
る蓋然性のある収入であると考えられるところを、将来の長期間におけ
る賃金水準の変化、昇給の不確実性等の不確実要素や計算の便宜等を考
慮に入れたときには、上記総額と近似するものとして、毎年全年齢平均
賃金を得るとした場合の計算結果を採用しても相当であると据えられて
いることによるものといえる。
8 6について考え方
① 被害者が非正規労働者であっても、事故時の被害者の年齢が20代
前半の場合、職歴や現実収入を一応考慮した上で全年齢平均賃金
又は学歴別平均賃金を基礎収入として採用したものが多い。
② 事故時の被害者の年齢が20代後半から30歳前後になると、学歴、
職歴、現実収入等から将来どの程度の収入を得られる蓋然性があ
るかを判断する傾向が明らかである。若年であるからといって容
易に全年齢平均賃金又は学歴別平均賃金を基礎収入として認定す
ることはしていない。
③ 若年の非正規労働者の基礎収入について、全年齢平均賃金又は学
歴別平均賃金を下回る金額を認定することは実務上それほどある
ようには思われないというのが率直な感想である。
9 6についての考え方(その2)
将来の可能性を判断するに当たって不確実要素が多いことは否定でき
ないが、これを若年の被害者についてあまり厳格に判断することは、
若年でありながら事故により一定程度の労働能力を失い、生涯ハンデを
背負わざるを得なくなった被害者の救済の面からも相当だとは思えない。