1 契約の一方当事者が、当該契約の締結に先立ち、信義則上の説明義務に違反
して、当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を相手方
に提供しなかった場合には、上記一一方当事者は、相手方が当該契約を締結した
ことにより被った損害につき、不法行為による賠償責任を負うことがあるのは格別、
当該契約上の債務の不履行による賠償責任を負うことはない。
(最判H23.4.22、金法1928-106)
2 予備的には出資契約上の債務不履行による損害賠償請求権に基づき、出資金
相当額および遅延損害金の支払を求めた事案である。
3 契約準備段階における当事者の義務について明示した規定はないが、契約
準備段階において交渉に入った者同士の間では、誠実に交渉を続行し、一定
の場合には重要な情報を相手方に提供すべき「信義則上の義務」を負っており、
この義務に違反した場合はそれにより相手方が被った損害を賠償すべき義務を
負う旨の判断を示している(最一小判H18.6.12)。
4 契約準備段階での一方当事者の説明義務等の違反を理由とする損害賠償責任
は、「契約締結上の過失」の一類型として議論されている。
5 一方当事者が信義則上の説明義務に違反したために、相手方が本来であれば
締結しなかったはずの契約を締結するに至り、損害を被った場合には、後に
締結された契約は、上記説明義務の違反によって生じた結果と位置付けられる
のであって、上記説明義務をもって上記契約に基づいて生じた義務であるという
ことは、これを契約上の本来的な債務というのか付随義務というのかにかかわ
らず、一種の背理であるといわざるを得ないからである。