1 数量的に可分な債権の一部についてのみ判決を求める旨を明示した訴え
に係る訴訟において、債権の一部が消滅している旨の抗弁に理由がある
と判断されたため、判決において上記債権の総額の認定がされたとしても、
当該訴えの提起は、残部について、裁判上の請求に準ずるものとして
消滅時効の中断の効力を生ずるものではない。
2 数量的に可分な債権の一部についてのみ判決を求める旨を明示して訴え
が提起された場合、債権者が将来にわたって残部をおよそ請求しない旨
の意思を明らかにしているなど、残部につき権利行使の意思が継続的に
表示されているとはいえない特段の事情のない限り、当該訴えの提起は、
残部について、裁判上の催告として消滅時効の中断の効力を生じ、債権
者は当該訴えに係る訴訟の終了後6ヶ月以内に民法153条所定の措置を
講ずることにより、残部について消滅時効を確定的に中断することが
できる。
3 消滅時効期間が経過した後、その経過前にした催告から6ヶ月以内に
再び催告をしても、第1の催告から6ヶ月以内に民法153条所定の措置
を講じなかった以上は、第1の催告から6ヶ月を経過することにより、
消滅時効が完成し、この理は、第2の催告が数量的に可分な債権の一部
についてのみ判決を求める旨を明示して訴えが提起されたことによる
裁判上の催告であっても異ならない。(以上、判旨)
4 本件は、亡Aの遺言執行者であるXが、Yに対し、Aが死亡時に
有していた未収金債権の支払を求めた事案。
Xは、既に、本件未収金債権の一部を請求する訴えを提起し、
全部認容判決を得ており、本件訴訟はその残部を請求するもので
ある。主な争点は、残部につき消滅時効が完成しているか否かで
ある。
5 1審は、一部請求である別件訴えの提起が、本件残部についても
裁判上の請求に準ずるものとして、確定的な時効中断効を有する
と判断し、Xの請求を全部認容した。
6 原審は、(1)別件訴訟においては明示的一部請求がされていたから、
確定的な時効中断効が生ずるのは別件訴訟の訴訟物である当該一部のみ
であり、本件残部については時効中断の効力は生じない、(2)仮に
別件訴えの提起により、本件残部につき、裁判上の催告の効力が生ずると
解しても、Xは、本件催告から6ヶ月以内に民法153条所定の措置を講じ
なかったから、本件残部については催告を繰り返したものと評価せざるを
得ないとして、本件残部につき消滅時効の完成を認め、Xの請求を棄却した。
7 裁判上の催告説とは、明示的一部請求の場合、当該一部については
民法147条1号により確定的な時効中断効が生ずるが、残部については、
裁判所の催告として暫定的な時効中断効が生じ、一部請求訴訟の終了から
6ヶ月以内に民法153条所定の措置を講ずれば、確定的な時効中断効が
生ずるという見解である。その他に ①一部中断説 ②全部中断説 がある。
8 明示的一部請求の訴えの提起が残部につき裁判上の催告としての
時効中断効を生ずるとしても、Xは、本件残部については、裁判外の
催告から6ヶ月以内に裁判上の催告をしたにすぎないことになる。
そうすると、Xは、催告を繰り返したにすぎず(裁判外の催告+裁判上の催告)、
当初の催告から6ヶ月以内に民法153条所定の措置を講じなかった以上は、
本件残部につき消滅時効の完成を阻止することができないのではないかが
問題となる。(判旨3)