共同相続人の一人が相続財産を占有する場合と明渡(諸問題388頁)

1 共有者は、持分に応じて共有物の全部を使用できる(民249)ので、
 相続財産を占有する相続人(以下「占有相続人」という。)は、他の
 相続人から明渡しの理由が共有持分である場合は明渡しを命じられる
 ことはない。


2 最高裁昭和41年5月19日判決
  「右の少数持分権者は自己の持分によって、共有物を使用収益する
   権限を有し、これに基づいて共有物を占有するものと認められる
   からである。従って、この場合、多数持分権者が少数持分権者に
   対して共有物の明渡しを求めることができるためには、その明渡
   しを求める理由を主張し、立証しなければならない。」


3 最高裁平成8年12月17日判決
  「共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産で
   ある建物において被相続人と同居してきたときは、特段の事情の
   ない限り、被相続人と右同居の相続人との間において、被相続人
   が死亡し相続が開始した後も、遺産分割により右建物の所有関係
   が最終的に確定するまでの間は、引き続き右同居の相続人にこれ
   を無償で使用させる旨の合意があったものと推認される。」


4 学説としては、原則としては管理行為であることを承認しつつ、遺産
 分割までの共同相続財産の占有に関する定めは、変更行為に準じて扱い、
 遺産分割における最終的判断を待つべきであるとの考え方が有力になり
 つつある。


5 しかしながら、遺産をだれがどのように占有使用するかは、本来遺産
 の性質に変じない利用行為であって変更行為とはいえないこと、遺産で
 ある不動産の占有関係について一律に変更行為に準じて扱うものとする
 と、遺産の管理が硬直化すること、遺産分割までの長期間を要すること
 もあることを考慮すると、遺産については結局のところ早く占有したも
 のが利益を得ることになって実際にも妥当でない結果を生むこと、様々
 な場合に統一された理論によって対処する必要があることを考えると、
 上記見解には賛成できない。


6 この問題が主として、被相続人と同居してきた相続人の遺産における
 居住を保護するために生じてきたことからすると、被相続人と同居して
 いて現に居住する相続人を保護し、他の場合は、通常の遺産管理の問題
 として解決すべきである。