◇最三判平成21年3月10日
1 問題の所在
所有権留保を抵当権と同様に扱うことができるか。
所有権留保においては、目的物の所有権は、形式的なものとはいえ留保
所有権者にあり、留保所有権者には、所有権に基づく一定の請求が認めら
れている。
留保所有権者を所有権者と同様に扱うことにも、抵当権者と同様に扱う
ことにも、一定の疑問が生じることから、留保所有権者が土地明渡義務等を
負うことになるか否かが困難な問題として現れてくるのである。
2 本判決の重要性
所有権留保をめぐる従来の議論は、留保所有権が「何ができるのか」という
点に集中しており、留保所有権者が負う義務および責任については、判例も
少なく、議論が十分とはいえなかった。
3 原審
債務者が期限の利益を失い、留保所有権者が目的物の引き揚げの権限を
有するとしても、車両を引き揚げてそれを占有保管すべき義務を負うわけで
はないから、留保所有権者に「占有を権能として包含する法的に通常の所有
権」が帰属しているということはできないとする。
4 最高裁の示した基準
最高裁は、留保所有権者が目的物の占有および処分の権限を実際に行使
したか否かを問題とせず、すなわち、担保権の実行に着手したか否かを
問わず、その権能を有するに至った時点で、一定の義務を負うことになる。
5 本判決の射程(譲渡担保)
所有権留保においては、債務者に実質的な所有権があるとすればその前
の所有者は、留保所有権者である。
これに対して、譲渡担保の場合には、実質的所有権は債務者のもとに
あり続けるだけである。