死後認知(民法910条)

1 相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において他の共同相続人がすでに当該遺産の分割をしていたときの民法910条に基づき支払われるべき価額の算定の基礎となる遺産の価額(判タ1465号49頁 最判R1.8.27)

2 判決要旨 相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割をしようとする場合において、他の共同相続人が既に当該遺産の分割をしていたときは、民法910条に基づき支払われるべき価額の算定の基礎となる遺産の価額は、当該分割の対象とされた積極財産の価額である。

3 消極財産である相続債務の負担の在り方の問題とも関連しており、相続債務の問題を民法910条の支払価額の算定の際に考慮すべきであるとして、これを控除した遺産の価額を基礎として支払い価額を算定すべきであるとする控除説と、相続債務の負担は同条の支払請求とは別個に考慮すべき問題であるとして、これを控除すべきでないとする非控除説の対立が見られる。

4 判例は、可分債務について、法律上当然分割され、各共同相続人がその相続分に応じてこれを承継するものと解すべきであるとしており、実務においても、相続債務は遺産の分割の対象から除外されている。

5 非控除説を採用する場合には、認知によって相続債務の負担に変更を生ずることになるものの、認知の時点において既に相続債務の返済を受けていた債権者の利益は、認知の遡及効の制限(同法784条ただし書)や債権の準占有者に対する弁済(同法478条)等の規定によって保護されることになると考えられるところ、当該共同相続人が同法910条の支払請求の相手方であれば、相殺によって処理することが考えられ、本件でも、原審において、被告からこのような相殺の抗弁が予備的に主張され、その一部が認められている。