事前求償権を被保全債権とする仮差押えは、事後求償権の消滅時効をも中断する効力を有する(最三小判平成27年2月17日)(判タ1412号129頁)

1.本件は信用保証協会であるXが、信用保証委託契約上の事後求償権等に基づき、Yらに対し、金員の連帯支払を求めた事案である。Yらが事後求償権の消滅時効を主張したのに対し、Xは事前求償権を被保全債権とする仮差押えにより消滅時効が中断していると主張して争った。
2.この点、これまでに最高裁判例がなく、学説上もほとんど議論されていなかったが、理論的には、時効中断の客観的範囲の問題と事前求償権と事後求償権との関係の問題の両面から考察されるべき問題と思われる。
3.まず、時効中断の客観的範囲の問題についての最高裁判決としては、手形債権に関する訴えの提起により原因債権についても消滅事項中断の効力が生ずるとされた最二小判昭和62年10月16日・民集41巻7号1497頁、判タ653号81頁がある。
 学説上は、時効中断が認められる根拠についての、権利行使説(ないしは実体法説)(訴えの提起等が権利者の最も断固たる権利主張の態度と認められることに基づくとする見解)と、権利確定説(ないし訴訟法説)(訴訟物たる権利関係の存否が既判力をもって確定されることにあるとする見解)の対立に対応した議論がされている。
 この点について、判例は、裁判上の請求に関し、その権利が直接訴訟物になっていなくても、当事者が同一で、訴訟物としての権利主張が当該権利の主張の一態様・一手段とみられるような牽連関係があるか、その存在が実質的に確定される結果となるようなときは、これを「裁判上の請求」に準ずるものとして、訴訟物となっていない権利についても時効中断を認めているものと解される。
4.次に、事前求償権と事後求償権との関係の問題については、両者が別個の権利であると同時に関連性もあることを踏まえ、前掲最三小判昭和60年2月12日で問題となった事後求償権の消滅時効の起算点以外の論点は、残された問題と考えられていた。
 前掲最三小判昭和60年2月12日以降は、事前求償権と事後求償権は別個の権利であるとする2個説が通説となり、その中でも同法459条1項後段所定の行為があっても事前求償権は消滅しないとする併存説が多数説であった。事前求償権の制度趣旨について、通説は、事前求償権が必要な範囲で例外的に認められた権利であるとし、有力説は、保証人をその負担から解放し免責するためのものであるとする。
5.本判決の理由は次の2点である。
第1に、事前求償権は事後求償権と別個の権利ではあるものの(最三小判昭和60年2月12日 判タ579号52頁)、事故求償権を確保するために認められた権利であるという関係にあるから、委託を受けた保証人が事前求償権を被保全債権とする仮差押えをすれば、事後求償権についても権利を行使しているのと同等のものとして評価することができる。
第2に、上記のような事前求償権と事後求償権との関係に鑑みれば、委託を受けた保証人が事前求償権を被保全債権とする仮差押えをした場合であっても民法459条1項後段所定の行為をした後に改めて事後求償権について消滅時効の中断の措置をとらなければならないとすることは、当事者の合理的な意思ないし期待に反し相当ではない。
6.判文の趣旨に照らせば、請求、承諾等の場合には、本判決の射程は及ぶものではないと解される。