一、総論
1.過失割合の「事故形態」は、歩行者対四輪車の事故の修正形態と考える
べきではないかという考えが強くなったことから生じた。確かに道交法上
は、自転車は「車両」として歩行者と一線を画した取扱がなされている。
しかし、
① 運転のための免許が不必要なこと
② 現実に年少者・老人などの弱者が多く利用しており事故発生の場合
の被害も大きい
③ エンジンにより高速走行する四輪車・単車とは運転方法や走行方法
に明確な違いがあること
④ 他の者に与える危険性は四輪車・単車とは格段の差があり安全確保
のための適切な措置を四輪車・単車と同様に厳格に要求するのは
均衡を欠くきらいがあること
⑤ 多くの場合自転車の進行速度は遅いので四輪車・単車側で接触回避
措置をとることは容易である場合が多いこと
2.その他の特長
自転車は四輪車や単車と異なり、並進が禁止されていること(法19条)
路側帯の通行ができること(法17条の2)、交差点を右折する際はできる
限り道路の左側端に寄り、かつ、交差点の側端に沿って徐行しなければ
ならないこと(法34条3項、いわゆる「二段階右折」)
3.全訂3版においては、単車よりはなお自転車に有利に修正するが、歩行
者と同視する程度までには修正しないことを基本として、過失相殺基準
を設定していた。自転車がいわゆる普通の速度(時速15km程度)である
ことを前提としていた。
4.しかし、自転車が低速で走行している場合、事故発生の危険性が小走り
の普通人に比較して高まるとは一概にいえないこと、実務上、低速の自転
車と四輪車・単車との事故については、事実上、歩行者と四輪車・単車と
の事故に関する基準が参照されていたことなどに照らすと、低速の自転車
については、歩行者と同視し得る余地がある。(判タ4訂版)
二、高速度進入
1.自転車の進行速度が時速15kmを超えている状態を目安とする。(青本
解説)
2.自転車の速度については厳密な認定が困難と考えられ、坂道をノー
ブレーキで下ってきた場合など高速度であることが容易に推認できる場合
のみを修正要素とするのが相当である。(判タ263頁)